長崎大学熱帯医学研究所(熱研)は、昭和17年(1942)に長崎医科大学附属東亜風土病研究所として開設され、昭和42年(1967)に長崎大学附置熱帯医学研究所となりました。日本において熱帯医学研究を目的とする唯一の公的機関として活動しています。本研究所は平成元年(1989)に全国共同利用研究所となり、平成5年(1993)には世界保健機関(WHO)からWHO協力センター(熱帯性ウイルス病に関する資料と研究)に、平成7年(1995)には文部省から熱帯医学に関する国際的に卓越した研究拠点の指定を受けています。さらに、平成21年(2009)に文部科学省より共同利用・共同研究拠点「熱帯医学研究拠点」の認定を受け、新たな運営制度のもと全国の研究者コミュニティーに開かれた研究所として活動しています。
中部アフリカに位置するガボン共和国において、現地研究機関と共同で1年半にわたり継続的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)サーベイランスを行った結果、ガボン共和国ではCOVID-19感染ピークがアフリカ全体よりも数ヶ月遅れて到来していたことが分かりました。ガボン共和国における主要な感染対策政策の施行時期と感染ピークの遅れとは相関がなかったことから、ガボン共和国には特有の環境要因があることが示唆されました。この要因を明らかにすることで、効果的な感染対策が構築されることが期待されます(Lancet Microbe 2022)。また、アフリカにおける新型コロナウイルスのゲノムサーベイランスコンソーシアムに参画し、この病原体のアフリカにおける進化と拡散状況を明らかにすることにも貢献しました(Science 2022)。
常在菌である肺炎球菌は時に乳幼児を中心に肺炎などを引き起こし、重症化することもあります。ワクチンにより重症化を抑えることができますが、戦略的に肺炎球菌ワクチン接種を行うためには、主な発病者である乳児への伝播経路を理解することが重要です。そこで、ベトナムのニャチャンにて4~11カ月乳児の接触パターンを調査し、接触者の年齢別肺炎球菌保菌率と組み合わせることで、乳児への肺炎球菌伝播経路を推定しました。その結果、乳児の肺炎球菌保菌と肺炎球菌保菌者との接触率には高い相関があり、2~6歳児が乳児の肺炎球菌暴露リスクの約半数に寄与していました。この結果は同地域での2~6歳層へのキャッチアップワクチン接種の重要性を支持するとともに、他の地域でも同様の手法で肺炎球菌伝播経路を評価、最適なワクチン接種スケジュールを検討できる可能性を示しました。(PLOS Medicine 2022)。
併設している熱帯医学ミュージアムでは、熱帯病の概説パネル、病原体顕微鏡映像、標本や模型などを展示・解説しています。毎年、多くの市民や修学旅行生の方々が見学に来られますが、国外からの来館者も多く、英語と中国語にも対応しています。国内外の貴重な標本や資料の収集保存と情報提供も行っています。人材育成としては、熱帯医学研修課程(3ヶ月)や国際研究倫理コース(3日間)などを社会人教育として毎年開催し、国内外から多くの参加があります。また、長崎大学医歯薬学総合研究科博士課程の熱帯病・新興感染症制御グローバルリーダー育成コースや熱帯医学・グローバルヘルス研究科、卓越大学院プログラムなどでの大学院教育を強力に支援し、高度人材育成にも貢献しています。さらに、令和元年(2019)にシオノギグローバル感染症連携部門を開設するなど、多くの産学連携研究も進めています。
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