環境医学研究所は名古屋大学で最も長い歴史を持つ研究所(1946年創設)です。そのミッションは、「環境医学に関する学理及びその応用研究」にはじまり、時代の潮流や社会的要請に応じて「宇宙医学など特殊な環境下の健康科学」、「近未来環境がもたらす健康障害のメカニズム解明と予防法開発」と変遷してきました。現在は、神経系、内分泌・代謝、ゲノムを重点研究領域として、人体の恒常性維持機構やその破綻による疾患の発症メカニズムなどに関する基礎医学研究を展開しています。また、附属センターである「MIRAIC-未来の医学研究センター」と「産学協同研究センター」では、所外研究者との連携・次世代若手研究者の育成・先進製薬企業等との産学連携による実践的創薬研究を進めることにより、様々な健康障害に対して有効な予防法・治療法を確立することを目標に研究を行っています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動神経細胞が選択的に傷害される神経難病です。多くは50代以降に発症し、数年内に全身の筋肉を動かすことが困難になります。現在まで治療薬は少なく、その効果も極めて限定的であるため、ALS病態の理解に基づいた新しい治療法の開発が期待されています。ALSの大半は遺伝的背景をもたない孤発性ALSとして発症しますが、一部は家族性に発症し、現在までに20種以上の原因遺伝子が報告されています。
私達は、遺伝性ALSモデルマウスの脊髄マイクロアレイデータと脊髄を構成する細胞群(運動神経と各種グリア細胞)それぞれの遺伝子発現データを統合解析することにより、細胞の単離などに依らずに個々の細胞群特異的な遺伝子変動を捉えられることを明らかにしました(Yamashita et al. Front Cell Neurosci, 2023)。本研究で同定された変動遺伝子のリストは、ALSの治療標的の同定にも有用であると考えられます。
また、私達は、家族性および孤発性ALSに共通して運動神経の小胞体とミトコンドリアの接触部:「小胞体・ミトコンドリア膜間領域(MAM)」と呼ばれる領域が崩壊していることを報告しました。MAMを維持するのに必須であり、ALS原因遺伝子のひとつSIGMAR1遺伝子によってコードされるσ1受容体が、ミトコンドリア外膜に存在するATAD3Aタンパク質と相互作用してミトコンドリアの機能や形態の維持に寄与していることを発見しました(Watanabe, Horiuchi et al. Neurobiol Dis, 2023)。ミトコンドリアの機能を向上させる薬剤が最近、海外でALS治療薬として承認されたこともあり、今後、MAMを標的としてミトコンドリア機能の正常化を目指す新たなALS治療薬の開発につながると期待されます。
■企業との連携
環境医学研究所は複数の製薬企業や医療機器メーカーとの共同研究、共同開発を推進し、私たちが保有する技術や知財の実用化を通して社会還元を図っています。その成果としてこれまでに複数の創薬ベンチャーや医療関連技術ベンチャー企業を排出してきました。
■市民との対話
私たちは毎年市民公開講座や研究所公開を実施して研究所で行われている先端研究を市民の皆様にわかりやすく説明しております。また、大学が実施する各種公開セミナーにも積極的に協力し、いずれも好評をいただいております。
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