生態学研究センターは、生態学の基礎研究と国際共同研究の推進を目的に、平成3年に全国共同利用施設として設置されました。現在は、生態学・生物多様性科学の共同利用・共同研究拠点として、国内外の研究者が利用できる研究体制を取っています。当センターでは、生物の個体群や群集、生態系など、個体レベル以上の生命現象をさまざまな観点から研究しています。多様な生物が、互いに影響を与えつつも共存している姿を描き出し、生態系が成り立っているプロセスや進化の理解と、我々が生態系から受けているさまざまな恩恵の解明を目指しています。
通常、生物個体の形態や行動は、その個体の生存や繁殖に有利になるように制御されているという暗黙の仮定があります。しかし実際には、今日地球上に生息する生物種の約40%は寄生生物であり、すべての野生動物は少なくとも一種の寄生生物に寄生されていると言われています。そのため、野生動物にみられる多様な形態や行動の中には、寄生生物の影響を受けて表現されたものが多く存在します。この顕著な例として、寄生生物の中には、自らの利益(感染率向上)のために、宿主個体の形態や行動を改変―宿主操作―する種がいます。
宿主操作の代表例として、ハリガネムシ類は、森林や草原で暮らす宿主(カマキリや直翅類等)の体内で成虫になると、自らが繁殖をする水辺に戻るために、宿主を操って入水させてしまいます。生態学研究センターの生物多様性生態学研究グループの研究から、ハリガネムシ類に感染したカマキリ(Hierodula patellifera)では、水面からの反射光に多く含まれる水平偏光への正の走性が高まり、入水行動に至ることが明らかになってきました。この成果により、宿主操作のターゲットを宿主の偏光受容システムに絞り込むことができ、その分子・神経機構を解明する道が拓かれました。この機構解明に向けて、令和4年度より創発的研究支援事業「寄生生物による生物機能創発機構の解明と制御への基盤研究」が始まりました。
京都大学は、全国各地に数多くの教育研究施設を展開しています。これらの隔地施設は、本学の多様でユニークな教育研究活動の拠点として重要な役割を果たすとともに、施設公開などを通じてそれぞれの地域社会における「京都大学の窓」となっています。これらの施設をそれぞれの地域により溶け込ませるため、京都大学は「京大ウィークス」として各施設を一般公開し、さまざまな公開イベントを行っています。
生態学研究センターは、京大ウィークスの機会を利用して、生態学の入門講座を小中学生や一般市民向けに開催しています。例年、「生態研センターの森の自然観察会」と題した野外の森の観察会を行い、参加者からは大変な好評をいただいています。この企画は、毎年少しずつ工夫をしながら、今後も継続します。
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