エネルギー理工学研究所は、1996年にエネルギーの基本要素であるエネルギーの生成・変換・利用の高度化に関する研究を行うために設立されました。エネルギーの散逸や有用物質の損失、有害物質の放出を最小限に抑え、高い環境調和性と社会受容性を持つ安全性に優れた、ソフトエネルギーからプラズマ・量子エネルギーまでの幅広いエネルギーを開発・研究することを目的にしています。このようなエネルギーを「ゼロエミッションエネルギー」と位置付け、共同利用・共同研究拠点事業「ゼロエミッションエネルギー研究拠点」の活動を展開しています。研究所には、生成・変換・利用をそれぞれ冠した3部門に属する14研究分野、研究所内外の共同研究や産官学連携を推進する附属エネルギー複合機構研究センターと二酸化炭素を機能性材料に変換する附属カーボンネガティブ・エネルギー研究センターを設置して、特色ある最先端の研究施設を活用しながら、多彩なエネルギーに関わる先端研究に取り組んでいます。カーボンニュートラル社会を支えるエネルギーを、自然の摂理や原理に立ち返って探究し、新しいエネルギーの創出と学理の構築を目指すとともに、次世代を担う研究者の育成に努めています。
2050年カーボンニュートラル社会の実現とそれに伴うグリーン成長戦略を見据え、附属カーボンネガティブ・エネルギー研究センターを設置しました。「ソフトエネルギー研究」では、これまで研究所が培ってきたナノ炭素材料、光電子デバイスや人工代謝経路の新しい原理、電気化学、バイオリファイナリー、中赤外自由電子レーザーの技術を深化させ、太陽光エネルギーを効率的に利用する革新的原理・技術の研究成果をさらに発展させました。「プラズマ・量子エネルギー研究」では、ヘリカル状の三次元磁場構造を持つプラズマ閉じ込め装置「Heliotron J」を用いて、複雑なプラズマ現象の解明と制御を中心に、高性能の核融合プラズマを実現するための基礎研究を行いました。また、それらを支える機能材料、構造材料の開発および核融合炉工学に関する先導的な研究を展開しました。
細胞内では、幾千もの酵素反応で構成される代謝経路が効率よく進行することによって、エネルギーをうまく利用しています。そのためには、代謝反応に応じて必要な酵素が接近し、集合体を形成すると考えられています。本研究所Lin Peng助教、中田栄司准教授、森井 孝教授らは、代謝酵素の空間配置を3次元的に変化させて、反応効率を制御する人工代謝経路を構築しました。森井教授らが開発した方法を使うと、舟形から六角柱へと形状が変化する3次元DNAナノ構造体の特定の場所に、キシロース代謝経路に関与するキシロース還元酵素およびキシリトール脱水素酵素を1分子ずつ配置できます。これらの酵素による2段階の代謝反応は、両酵素が六角柱ナノ構造体の内部にある方が、舟形構造上にある場合よりも効率よく進行することがわかりました。また、酵素間の距離だけでなく、酵素を取り巻くナノ構造体内の3次元環境も、反応の促進に寄与している可能性があります。本研究成果は、細胞内での酵素複合体形成による効率の高い代謝反応を理解するうえでの学術的な意義に加えて、細胞外での人工代謝経路の構築に向けた新たな指針を与えるものと期待されます。
近年、グラフェンに代表されるわずか1ナノメートルの厚みの半導体を回転させ重ねることで、新しい物理現象が現れることから注目を集めています。半導体のような物質を構成する原子の規則正しい配列が、わずかにずれて重なった時に生じる干渉縞模様のことを、フランス語の語源からモアレ(moiré)縞と呼びます。本研究所松田一成教授と篠北啓介助教らのグループは、新しい二次元の半導体である単層二セレン化モリブデンと二セレン化タングステンとで生じるモアレ構造を作製し、その光学的な性質に関する詳細な研究を継続して行ってきました。その結果、このモアレ構造に右回りの光を入射すると、それとは逆の左回りの光が放出される事を観測し、その詳細な光放出の物理メカニズムの理解に成功しました。本研究成果はその学術的な意義に加えて、この現象を利活用した量子光デバイス応用に向け、新たな指針を与えるものと期待されます。
基礎から応用まで、多様な要素を含むエネルギー研究は、産業界や国公立研究機関との連携が欠かせません。そのため、研究所の多様な研究施設を供用することで研究の幅を広げ、社会への貢献を積極的に行っています。また、研究所活動を社会に発信する機能を高めるとともに、将来の科学技術を担う中高生に対して見学会や大学院生との交流会を行うなど、社会貢献を積極的に行っています。
世界各国の研究機関と交流協定(15ヶ国36機関)を結び、積極的な交流を行っています。また、毎年著名研究者を招聘した国際シンポジウムを開催し、国際的な情報発信と交流を積極的に行っています。とくにアジア地域との交流では、日本学術振興会(JSPS)の「拠点大学交流」(日韓)や「アジア研究教育拠点事業」(日中韓)による先進エネルギー科学における15年に及ぶわが国のハブとしての実績に基づく東アジア地域での国際交流を初め、日本学術振興会研究拠点形成事業や、東南アジア地区における国際共同研究プラットフォーム(JASTIP)などの活動に力を入れています。
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