環日本海域から東アジア全域におけるさまざまな環境問題の解決を目指し、2002年に設立された自然計測応用研究センターを2007年に「環日本海域環境研究センター」へ改組し、2015年には研究の焦点を環日本海域の環境問題の解決に特化させるため、2研究部門(研究領域部門と連携部門)と4研究領域(大気環境、海洋環境、陸域環境及び統合環境の4領域)に改組しました。共同利用施設として、能登大気観測スーパーサイト、臨海実験施設、低レベル放射能実験施設、尾小屋地下測定室、植物園を有します。文部科学省の共同利用・共同研究拠点「越境汚染に伴う環境変動に関する国際共同研究拠点」に2016年4月より認定され、事業を推進しています。
東アジアから日本への偏西風・対馬海流による越境汚染物質の移動とその影響評価について、産業活動に伴って発生する発がん性・変異原性・内分泌攪乱性の有害有機物、多環芳香族炭化水素類(以下、PAHsと表記)を共通の観測項目として調査を進めています。2004年から能登半島の輪島観測局で大気エアロゾル中に含まれるPAHs濃度の連続観測を実施しています。また、2015年から対馬海流の流軸上に位置する島根大学隠岐臨海実験所、金沢大学能登臨海実験施設、新潟大学佐渡臨海実験所において毎月調査し、表層海水中のPAHs濃度の時系列変動を解析しています。さらに、放射性核種を海洋環境におけるPAHsの環境動態トレーサーとして活用しています。
図には2018年~2022年の道東沖の調査航海で採取した表層海水の溶存態134Cs濃度の水平分布を示しています。長い半減期 (30.2年) の137Csには福島原子力発電所事故に放出された137Csとともに、核実験由来の137Csが存在します。一方、短い半減期 (2.06年) のため現在検出しうる134Csは、2011年福島原子力発電所事故由来と考えられています。セシウムは海洋では溶存性であり、供給の時期および海域の明らかな134Csは、海水循環および溶存汚染物質循環の化学トレーサーとして有効です。当センターでは、尾小屋地下測定室を活用して北海道道東沖合表層における極低レベルの134Cs濃度を調べた結果、2020年に最大値を示すブロードな濃度変動が明らかになりました。図に示した他の海域の134Cs濃度の報告例とも比較した結果、134Csの寄与を受けた海水は、拡散しながら北太平洋北域を反時計回りに循環、事故後10年を経過し日本列島に戻ってきたことが推測されました。
能登半島を中核とした研究フィールドでの成果を国内外に広く発信し、地域社会や国際社会へ国際共同研究拠点が目指す取組みを理解してもらうとともに、地域のステークホルダーとの協働活動体制の構築や地域人材育成を図ることを目的とする公開講座、市民講演会を開催しています。令和4年度には、公開講座「海外学術調査レポート2022」、当センター主催の市民講演会「浮世絵に学ぶ科学成果の発信:アートと科学のマリアージュ」、「環境依存性性分化」、「地球惑星科学者 モンゴルに行く」、「北極の氷からひもとく大気汚染の歴史」を実施しました。また、珠洲市と能登町の小中学生を対象に「海を守ろう!絵画コンクール」を実施し、314枚の応募作品から最優秀賞・優秀賞・特別賞の計27作品を表彰しました(写真参照)。この活動は両自治体の広報誌で紹介されています。さらに、3件の国際シンポジウム、共同研究成果報告会を開催するとともに、環日本海域環境研究センターの研究活動を紹介する動画をホームページに掲載し、研究活動・成果の発進力強化に努めています。
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