素粒子物理国際研究センターは、初代施設長・小柴昌俊博士(2002年ノーベル物理学賞)が1974年に設立した組織で、世界最先端の加速器施設において我が国の素粒子物理研究の中心拠点となり、国際共同実験を主導・実施しています。具体的には、欧州合同原子核研究機構(CERN)の世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突型加速器LHCを用いた国際共同実験ATLASを遂行し、2012年のヒッグス粒子発見に大きく貢献しました。現在はヒッグス粒子や超対称性などの卓越性の高い物理研究を推進し、同時に将来の高輝度LHCプロジェクトに資する検出器アップグレードの研究開発を進めています。一方、世界最高強度のミュー粒子ビームと新しい素粒子測定技術を用いて、大統一理論とニュートリノ質量の謎に挑むMEG II実験をスイスのポールシェラー研究所(PSI)で実施しています。更に、先端戦略分野の量子AIテクノロジー研究部門では、ソフトとハードの両面で研究を推進するとともに、量子ネイティブ人材育成も行っています。
CERNのLHC加速器は入射器アップグレードを中心としたロングシャットダウン(LS2)のプログラムを完了させ、2022年7月5日から重心系エネルギー13.6TeVでの陽子陽子衝突実験(Run3)を開始しました。ATLAS実験では2022年の実験期間中に37.8 fb-1の衝突データが記録され、トリガー・検出器の性能評価解析や物理データ解析を進めています。検出器運転ではlevel-1ミューオントリガー、LAr検出器、TGC検出器、ハイレベルトリガーの各システムの最高性能を引き出すことに成功しました。
一方、2029年開始の高輝度LHC(HL-LHC)ではLHCのルミノシティが大幅に増強され、粒子衝突頻度が高く実験条件の厳しい環境下でも良質なデータを取得して優れた物理成果を導くためには、検出器の高度化と革新的な計算機技術の導入が必須になります。これらの問題解決に向けた大胆かつ野心的な開発・準備研究にも取組んでいます。
本センター設置の地域解析センターシステムは、ATLAS実験で発生する膨大なデータを解析するための日本における拠点で、日本の共同研究者が独占的に使用できる計算機資源を提供するとともに、Worldwide LHC Computing Grid(WLCG)と呼ばれる世界規模の分散計算環境であるグリッドインフラの一翼を担っています。地域解析センターは年間を通じて順調に稼働し続け、運転予定期間に対する運転効率は100%に到達しています。
レプトンフレーバーを破るミューオン稀崩壊μ→eγを世界最高感度で探索するMEG II実験は、PSI加速器のメンテナンス期間中に各検出器の立ち上げ作業と6月にミュー粒子ビームを使った最終調整を行い、2022年7月14日から本格的な物理データ取得を開始しました。これまでにない大量のデータと検出器性能を達成することができ、2022年度のデータで先行MEG実験の探索感度を凌駕する見込みです。
理学部と合同の高校生のためのオープンキャンパスを2022年8月にオンライン開催しました。模擬授業とバーチャルCERNツアーの2企画で実施し、知識豊富な現地教員と大学院学生のガイドにより最もアクセスが困難なATLAS実験地下室にカメラを持ち込み、巨大で精密な検出器の主要部などを解説しました。また、宇宙誕生の謎に迫る素粒子研究を、中高生・大学生が楽しみながら深く学ぶことができるサイエンスレクチャーでも多数講演しました。
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