研究所では、「加齢に伴って増加する認知症などの脳加齢疾患および難治がんの克服」を具体的な⽬標として、「加齢制御」、「腫瘍制御」、「脳科学」の三つの研究部⾨、附属施設である環境ストレス⽼化研究センター、医⽤細胞資源センター、⾮臨床試験推進センター、脳MRIセンター、学内共同教育研究施設であるスマート・エイジング学際重点拠点研究センターで研究を推進しています。加齢制御部⾨では、加齢の分⼦メカニズムや、ゲノム損傷修復機構、⽣体防御機構の解明を⾏います。腫瘍制御部⾨では、腫瘍増殖制御のメカニズムを解明しています。脳科学部⾨では、脳の発達と加齢の基礎研究を⾏うとともに、認知症など脳加齢疾患の最先端の診断・治療法の開発を⾏います。以上により、個⼈や社会のスマート・エイジング達成に貢献することを、理念に掲げております。なお研究所は「加齢医学研究拠点」として、全国共同利⽤・共同研究を積極的に推進しています。
がんの発生や進展のプロセスに関する研究はとても盛んです。がん細胞は生体内の局所から生じます。分裂を繰り返しながら周囲の組織に浸潤し、血管を呼び込み、より大きながん組織を形成します。このようにしてできたがん組織は、別の場所にがん組織を作る種となります。すなわち、がん細胞の一部が原発巣を離れ、異なる場所に新しいがん組織 (転移巣) を形成します。全身に広がったがん組織はやがて宿主の恒常性を破綻させ、個体は死に至ります。
さて、がんはなぜ体に悪いのでしょうか?物理的な圧迫により原発臓器の機能を妨げるからでしょうか。転移先の臓器に機能不全を誘発するからでしょうか。それとも何らかの飛び道具 (例: タンパク質) を分泌し、離れた位置にある宿主の臓器に悪い影響を与えるからでしょうか。がんがなぜ体に悪いのか、この根本的な問いに答えるのは、これらのさまざまな可能性を見落とすことなく緻密に調べ上げる必要があります。
私たちは、がんをもつ個体の宿主臓器における遺伝子の発現や代謝の変化を網羅的に捉える大規模データ解析を活用してこの課題に取り組んでいます。最近では、マウスモデルを活用して、がんが宿主のニコチンアミドメチル基転移酵素 (NNMT) を介して肝臓の代謝を撹乱していることを発見しました (Mizuno et al., Nat. Commun., 2022)。NNMTは脂質代謝制御にも関わる重要な酵素で、がんに起因する宿主の異常に関する重要な治療標的になりえます (Yoda et al., J. Biochem., 2023)。また、がんによって肝機能の空間的制御が乱れることもわかりました (Vandenbon et al., Commun. Biol., 2023)。肝臓の主要な構成細胞は肝細胞です。この肝細胞の機能は空間的に制御されていることが知られています。酸素や栄養に富む血液にアクセスできる位置に存在する肝細胞ではエネルギー代謝が活発であり、酸素や栄養に乏しい血液を受けとる肝細胞では解毒系の代謝が盛んです。このことを肝臓のzonation (ゾネーション) と言います。私たちは、空間トランスクリプトームという技術を使って、がんによって肝臓のゾネーションが乱れることを発見しました。このほかにも、がんが肝臓に炎症を誘発するしくみを調べました (He at al., Front. Immunol., 2023)。
これらの研究により、がんによる全身の不調というおそらくは非常に複雑な現象を、丁寧に切り分けて理解することができつつあります。がんが治らなくても生活の質を落とさず元気に生きていける、そのような世界の実現に役に立ちたいと考えています。
(生体情報解析分野:河岡慎平)
老化に伴う様々な睡眠の不具合は、私たちの日々の生活へ悪影響を及ぼしうる大きな社会問題となっています。特に、睡眠が断片化(夜間中途覚醒、日中の眠気)することにより睡眠の質が低下すると、生活の質の低下につながっています。私達は、老齢マウスに認められる睡眠断片化に関わる神経細胞として、脳内の視床下部背内側部にPR-domain containing protein 13 (Prdm13) 陽性神経細胞を見出しました。また老化に伴う睡眠断片化は食餌制限により顕著に改善することができ、その作用にはPrdm13陽性神経細胞が必須であることも明らかにしました。また老齢マウスの背内側部特異的にPrdm13の発現を高めた場合にも、老化に伴う睡眠変化が改善され、Prdm13陽性神経細胞の重要性がさらに確認されました。本研究成果から、老化に伴う睡眠障害への新たな介入法の開発が期待されます。特に私達は、視床下部背内側部におけるSirt1/Prdm13シグナル系の加齢変化と分子メカニズムからPrdm13陽性ニューロンの機能を高める方法を見出すことは、老化に伴う睡眠障害改善や健康寿命延伸につながるのではないかと考えています。
(統合生理学研究分野:佐藤亜希子)
加齢医学研究所では、様々な環境に対する応答メカニズムを研究し、その強化により健康長寿を実現することを目指しています。そのためには、健康状態をきめ細やかに評価することが必要になります。そこで私達が着目したのは、呼気です。呼気に含まれるエアロゾルを冷却し、呼気凝縮液として採取して分析します。呼気凝縮液は無侵襲に採取できる生体試料であり、必要に応じて反復して採取できるメリットがあります。しかし、これまで生体試料としての利用実績がほとんどないことから、健常人でどのような物質がどれくらい含まれているのかという基本的な情報がえられていません。私達は、呼気凝縮液を使った診断技術を開発するために、本年令和5年度から6年度にかけて、2年計画で、300人ほどの健常ボランティアに協力を依頼して、呼気と血液を提供してもらうことにしました。呼気凝縮液中の物質と血漿中の物質がどの程度相関するのかを調べて、呼気凝縮液中の物質がなにを意味するのかを解釈する手がかりにします。本年4月に、協力者募集の広告をだしたところ、開始から3日もたたないうちに300名を超える応募がありました。これは社会的な関心の高さを示していると思われます。地域住民の方々の協力をいただきながら、健常人の呼気凝縮液に含まれる代謝物プロファイルを明らかにして、呼気診断技術開発の基盤にしたいと考えています
(遺伝子発現制御分野:本橋ほづみ)
北海道大学
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