ヒトレトロウイルス学共同研究センターは、熊本大学エイズ学研究センターと鹿児島大学難治ウイルス病態制御研究センターを再編・統合し、5部門11分野の新センターとして2019年4月1日に設置されました。国立大学の枠を越えた共同研究センターの設置は全国初の試みであり、両大学の人的・物的資源を有効活用し、ウイルス感染病態の基礎研究に基づいた新たな感染予防・治療法の開発を目指しています。特にコントロールの難しい慢性感染を引き起こすHIV-1/AIDS、HTLV-1/ATL/HAM、HBV/Hepatitis Bに加えて、SARS-CoV-2/COVID-19を主な研究対象としています。また、感染症の制圧には、世界的な研究者・臨床医のレベルアップが必須であることから、感染症に係る人材の育成を推進しています。
令和5年度も新型コロナウイルス感染症に関して多くの研究結果を報告しました。特に当センターの2名のウイルス研究者が、研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」のメンバーとして参画し、SARS-CoV-2に関する多くのインパクトの高い共同研究論文を発表しました(Nat Commun. 15(1):1176, 2024, Cell Host Microbe 32(2):170-180, 2024, Lancet Microbe 5(4):e313, 2024, Lancet Infect Dis. 23(11):e460-e461, 2023, Commun Biol. 6(1):772,2023, Nat Commun. 14(1):2800, 2023, Nat Commun. 14(1):2671, 2023)。これはレトロウイルス感染症研究で現在まで培った手法・技術等が新興ウイルス感染症にも応用可能であることを示すものであり、また共同研究を行うことで迅速に研究が遂行できることがわかりました。今後も新興ウイルス感染症に対して、必要時対応していく予定です。その他、新型コロナウイルス感染症の臨床的な研究もいくつか報告しました(J Infect Dis. 228(12):1652, 2023, Int J Infect Dis. 128:347-354, 2023)。HTLV-1研究では、神経疾患HAMの感染細胞クローンの詳細な解析(JCI Insight. 8(7):e167422, 2023)や、台湾のウイルスゲノムの研究(PLoS Negl Trop Dis. 18(2):e0011928, 2024)、ROSを介したアポトーシス誘導による血液疾患ATLの治療研究(Antioxidants. 12(4):864、2023)等を報告しました。HIV-1研究では、ウイルス発現を可視化するシステムの開発(Commun Biol. 7(1):344, 2024:図左)、感染を規定するSERINC5に対する患者由来ウイルス蛋白の影響(J Virol. 97(10):e0082323、2023)、HIV-1 Vifタンパク質のウイルス感染における役割の解明(mBio. 14(4):e0078223, 2023:図右)等を、またインフルエンザウイルスに関して新たな治療薬候補の研究(J Med Virol. 96(1):e29372, 2024)等を報告しました。
COVID-19、HIV-1、HTLV-1、HBVなどの予防・治療法の社会実装のため、発明の特許化および様々な企業との共同研究を行っています。当センターでは、これら研究シーズの社会実装化に向けてトランスレーショナルリサーチ部門を設置し、企業等への橋渡しを行っています。また、国際シンポジウム(第24回熊本エイズセミナー:写真左)の開催、中・高・大学生インターンシップの受け入れ、ナイジェリア疾病対策予防センター(CDC)職員のバイオセーフティレベル3(BSL3)研修受け入れを行いました(写真右)。
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