研究所では、「加齢に伴って増加する認知症などの脳加齢疾患および難治がんの克服」を具体的な⽬標として、「加齢制御」、「腫瘍制御」、「脳科学」の三つの研究部⾨、附属施設である環境ストレス⽼化研究センター、医⽤細胞資源センター、⾮臨床試験推進センター、脳MRIセンター、学内共同教育研究施設であるスマート・エイジング学際重点拠点研究センターで研究を推進しています。加齢制御部⾨では、加齢の分⼦メカニズムや、ゲノム損傷修復機構、⽣体防御機構の解明を⾏います。腫瘍制御部⾨では、腫瘍増殖制御のメカニズムを解明しています。脳科学部⾨では、脳の発達と加齢の基礎研究を⾏うとともに、認知症など脳加齢疾患の最先端の診断・治療法の開発を⾏います。以上により、個⼈や社会のスマート・エイジング達成に貢献することを、理念に掲げております。なお研究所は「加齢医学研究拠点」として、全国共同利⽤・共同研究を積極的に推進しています。
研究用磁気共鳴イメージング(MRI)とは非侵襲で全身を高解像度に可視化するものです。本研究所がデータを提供し、世界各国の多施設が参画した国際的ラット機能的MRI比較研究が2024年4月にNature Neuroscience誌(Nature出版)の26巻4号に掲載されました。本論文はインパクトファクターの高い雑誌に掲載されただけなく、「注目度の高い論文」指標とされるトップ1%論文(Field Weighted Citation Impact[FWCI]13.21)となりました。本プロジェクトにより世界中の研究者の賛同が得られたスタンダードとなるラット機能的MRI方法が確立されたことから、世界中の研究者コミュニティで反響を呼びました。
RNAはDNAに含まれる遺伝情報をタンパク質に仲介することで生命高次機能を調節します。近年RNAに170種類を超える多彩な化学修飾が見出され、RNAエピトランスクリプトームと呼ばれるこの現象はRNAに質的な情報を与えることで、翻訳後の遺伝子発現に不可欠であり、化学修飾の破綻が多様な疾患の原因となります。加齢医学研究所では、RNAエピトランスクリプトームの分子機序解明と疾患への応用に焦点を当て精力的に研究活動を行っています。令和5年度はミトコンドリアに存在する移転RNA(tRNA)の硫黄修飾を行う酵素であるMTU1が関連する難治性肝不全疾患の発症原因を突き止めました。本成果はNucleic Acids Research誌(IF:16.971)に掲載され、ミトコンドリア病の原因解明と治療法の開発に道筋をつける重要な研究として国内外に大きな反響を呼びました。
新型コロナウイルス感染症対策として、呼気の凝縮液を用いてウイルスゲノムRNAの検出、生体由来のサイトカイン、代謝物の検出を行う「呼気オミックス」を立ち上げ、新規呼気診断システムの開発に向けた基礎研究を開始しました。呼気凝縮液はタンパク質、核酸、脂質、ほか様々な代謝物を含んでおり、質量分析装置やPCR装置を用いてそれらを定量的・定性的に分析することが可能です。無侵襲で採取可能な呼気凝縮液を、血液や尿に加えて新たな生体試料として利用するため、まずは、健常人のデータを取得する必要がありました。そこで、令和5年度には、250名のボランティアの呼気凝縮液と血漿の収集を実施しました。その結果、現時点で世界唯一の呼気バンクが立ち上がることになりました。呼気診断の有用性を示すフィージビリティスタディの結果を、令和5年7月にNature Communications誌に論文として発表しました。
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