化学生命科学研究所は本学の加藤与五郎教授の特許収入の寄付により、1939年2月に東京工業大学・資源化学研究所として設置され、その後、本学の組織改革により2016年4月より化学生命科学研究所となりました。
本研究所では、「分子を基盤とする化学および生命化学に関する基礎から応用までの研究の深化、発展を通じて、新しい学理の創成と次世代科学技術の創出を実現し、人類の高度な文明の進化と、より豊かで持続的な社会の具現化に貢献する」というミッションを掲げています。さらなる発展を目指して、所内の研究グループを5つの領域(分子創成化学領域・分子組織化学領域・分子機能化学領域・分子生命化学領域・分子先駆化学領域)に再編しました。
今後も、「化学」を基盤とした新たなサイエンス、それに根ざした応用研究を展開していきます。
さまざまな遺伝形質の微生物株からなる大規模ライブラリを、マイクロドロップレットを用いて超並列にシングルセル培養し、バイオセンサーであるQuenchbody/Q-bodyによってドロップレット内で分泌生産された目的タンパク質を蛍光シグナルとして検出・選別することで、タンパク質高分泌株を迅速にスクリーニングすることに成功しました。このスクリーニング手法を用いて、約105個の突然変異株群の選別を、従来は不可能であった数日という短期間で実現し、増殖因子の一種であるヒトFGF9の分泌生産量が約3倍に向上した微生物株を作出することに成功しました。今後さまざまな有用タンパク質を高分泌生産する産業用微生物株の迅速な作出が可能となり、将来的にはバイオ医薬品の安価供給の実現が期待されます。
ヒト体内で概日リズム制御に関わるホルモンであるメラトニンが、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の増殖に必須で固有のゲノムを持つ細胞内小器官、アピコプラストにおける遺伝子発現を活性化することを発見しました。今回の発見で、マラリア原虫が感染後、ヒトの概日リズムと同期して周期的なマラリアの症状を起こす仕組みの理解を深め、この制御系を標的にすることで新規抗マラリア薬が開発できる可能性があります。
グリオーマ細胞に高発現している葉酸受容体αのリガンド、アルブミンリガンド、ホウ素クラスターが連結されたホウ素薬剤「PBC-IP」を新たに開発しました。PBC-IPは、臨床用ホウ素薬剤の10~20倍のホウ素送達能を持つとともに、顕著な腫瘍増殖抑制効果が得られました。また、convection-enhanced delivery(CED)法によってPBC-IPをマウス脳内患部に局所投与し、中性子照射実験を行ったところ、既存法と比べてマウスの生存期間が増加することがわかりました。さらに、通常のホウ素薬剤投与量の1/50の投与量で高い治療効果が得られることから、難治性悪性脳腫瘍の治療法の開発において、極めて大きなインパクトをもたらすことが期待されます。
アルツハイマー病の原因物質とされているアミロイド線維は、ペプチドの作り出す平行型βシートの面と面を分子レベルで精密に張り合わせた「立体ジッパー」構造を生体内で形成し、強靭な線維を作り出す例として知られています。しかし、ペプチド同士は無秩序に凝集しようとするため、分子制御が難しく、これまで、こうしたジッパー構造を人工的に作ることは困難でした。今回新たに、βシートの片面に金属イオンとの結合サイトを加え、金属イオンによる自己組織化を利用することで、人工的にペプチドの「立体ジッパー」構造を模倣し、合成することに成功しました。また、この手法によりでき上がったジッパー構造を用いて、向かい合ったβシート間に働く、さまざまな側鎖の噛み合いや接触構造の高精度な観測も実現しました。本成果で得られたさまざまな様式の「立体ジッパー」構造をもとに、アミロイド線維などの生体構造について理解を深めるとともに、強靭なペプチド性材料の創製に向けた応用が期待できます。
独自に開発したV型両親媒性分子を超難溶性の芳香環ポリマーと混合することで、ナノカプセル化を介して、ポリマーの効率的な水溶化に初めて成功しました。また、可溶化を実現したことで、これまで不可能であったポリマーの構造や物性を解明できました。本手法の最大の特徴は、カプセルからの取り出しで、芳香環ポリマーの薄層フィルムが簡便に作製できる点にあります。すなわち、水を溶媒として、煩雑な側鎖導入を必要とせず、使用したV型両親媒性分子も再利用可能な、ポリマーの新加工法を開発しました。水溶化により、これまで困難であったポリマーの詳細な構造解析と物性評価が可能となり、さらに、超難溶性ポリマーの薄層フィルムの簡便な作製にも成功しました。本研究成果および手法は、溶解性の問題で取り扱いが困難な多様な機能性ポリマーに応用することで、環境調和型の新たな材料創製への展開が期待されます。
サンドイッチ型分子「フェロセン」の殻を持つナノカプセルの新構築法を開発しました。このカプセルを利用することで、平面状分子や球状分子の簡便な内包に成功しました。また、電子不足分子の内包で、特異な近赤外吸収帯が出現しました。さらに、このカプセルは電子の授受により分散と集合を制御することができ、その外部刺激で内包分子の放出にも成功しました。本研究では、新たにフェロセンを持つ湾曲型の両親媒性分子を設計・合成しました。この分子が水中で瞬時に集合することで、高密度なフェロセンの殻を持つナノカプセルの形成に初成功しました。また、このカプセルの内部空間は、水中で平面状分子や球状分子を効率良く取り込むことができます。特に電子不足な分子を内包することで、カプセルとの効果的な電荷移動相互作用に基づく近赤外吸収帯(650~1,350 nm)を示しました。カプセルは電子の授受で、その構造の分散と集合を制御することが可能であり、内包分子の放出とともに近赤外吸収帯の解除にも成功しました。本研究成果は、フェロセンカプセルによる新たな刺激応答性材料への展開が期待されます。
超解像赤外分光イメージング技術を用いて、光合成微生物が形成する細胞の集合体(バイオフィルム)の分子成分を非標識かつ高解像度で可視化することに成功しました。これまでのイメージング技術では、分子を標識した際にバイオフィルムの構造に影響を与えるといった課題がありました。そこで研究グループは、非標識で試料の構成分子を分析できる超解像赤外分光イメージング技術を利用することで、バイオフィルム中に含まれる硫酸多糖成分や藍藻細胞などを可視化することに成功しました。これにより、バイオフィルム内で硫酸多糖成分に沿って藍藻が配列している様子や、タンパク質と多糖成分が共在している様子が明らかになりました。本手法により、光合成微生物バイオフィルムの形成メカニズムや機能に関する新たな知見が得られるだけでなく、他の微生物バイオフィルムにおいてもその構造と組成の理解が進むことが期待されます。
がんの高精度MRI診断と中性子捕捉がん治療を同時に実施できる新規高分子MRI造影剤を開発しました。本研究では、親水性部位と疎水性部位からなる新規高分子の精密合成によって、一本の高分子が水中で自発的に折りたたまれる現象「自己折りたたみ」を誘起させることで、ナノ粒子化に成功しました。既存の多くのナノ粒子よりも極めて小さく、膵臓がんなど難治性が高いがんへの集積が期待できます。また、折りたたまれた高分子鎖中にMRIの造影分子を封じ込めることで緩和能が向上し、少ない投与量でもがんを検出できる優れた造影効果を維持することも実証しました。これにより下水に廃棄される重金属が削減され、自然環境への負荷軽減につながります。さらに、マウスを用いた実験により、本研究で開発された薬剤はがん選択的に高濃度に送達ができ、MRIによる高解像度な分布の可視化も可能であることを確認しました。このことは、近年注目されている中性子捕捉がん治療の課題となっていた、中性子と反応するホウ素が腫瘍全域に確実に集まっているかの判定に貢献するものです。本研究成果は、新しい原理に基づく高精度のがん診断薬の創出基盤となるだけでなく、MRイメージングによるガイドを介した中性子捕捉療法の実施、すなわち一つの薬剤で診断と治療を同時に達成できるセラノスティクス薬剤への展開も期待されます。
「FRET型張力センサ」の応答を改良し、体中の組織の蛍光色が引張りに応じて変化する遺伝子を持つ遺伝子改変マウスの作出に成功しました。このマウスでは研究現場に広く普及している「共焦点顕微鏡」で張力変化を観察できることを、血管、腱、筋肉、それらから単離した細胞で確認しました。また、組織や細胞によって張力に対する感度が違うことを発見し、その原因は組織や細胞の微細構造の差や、組織ごとの機能の差によって生じる可能性があると結論づけました。本研究で開発したマウスを使うことで、様々な組織や細胞内の張力変化に加え、発生、成長、老化の過程における応答の変化も簡便に調べられるため、幅広いメカノバイオロジー分野への貢献が期待されます。
光合成微生物であるシアノバクテリアが持つプラスミドの複製に関わるタンパク質CyRepX(Cyanobacterial Rep-related protein encoded on pSYSX)を同定しました。また複数のシアノバクテリア種に保存されていることをゲノム情報解析により明らかにしました。CyRepXが複製に関わる他のタンパク質と類似した構造を持つことが立体構造予測により示唆されました。 これを導入した発現ベクターを開発し、既存のベクターと併用して外来遺伝子を発現できることを示しました。シアノバクテリアはカーボンニュートラルな有用物質生産ホストとして期待されており、本研究で開発されたベクターはシアノバクテリアの産業利用を加速させる新たな遺伝子工学ツールとして期待できます。
共同研究拠点事業を通じて、災害やパンデミックなどの緊急事態に迅速に対応し地域の連携と研究教育力の向上と持続に努めています。ホームページに「最新の研究」という欄を設けており、毎月、各研究室の最先端の研究を簡明に解説した Web ジャーナルとして、社会に広く公開しています。大学広報を通じて国内外へのプレスリリースや記者セミナーの開催などを行い積極的に優れた成果の発信を行なっています。また、所内、学内、国内外の研究者の講演を行って、国内外の多様な聴衆に対応できる情報発信を行っています。2016年より研究院公開、大学祭では研究室公開を行い、一般の見学者に対して演示実験を展示する、あるいは、体験してもらうことによって、最先端の成果を紹介しています。
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