東京大学生産技術研究所(略称、生研)は、1949年に設置された国内最大規模の大学附置研究所です。現在は、およそ120の研究室を擁し、5研究部門、1客員部門、2寄付研究部門、2社会連携研究部門、大規模実験高度解析推進基盤、価値創造デザイン推進基盤、14センターにより構成されており、約400名の教職員、約900名の大学院学生・ポスドクを含め、総勢1,300名以上が、教育研究活動に従事しています。工学のほぼ全領域を包含する総合工学研究所また世界的中核研究所として、先端的な工学知を創造・発信するとともに、社会における様々な課題の解決や産業の創成に貢献し、数多くの分野融合かつ国際的な活動を組織的に展開してきました。これからも先端的な学術の創成と実践的な人材の育成を両輪として、広く国内外のパートナーと連携して工学の実践知を共創することを通じて、社会の活力創出に貢献して参ります。
生研の最近の大きな研究成果としては、以下が挙げられます。
量子ビームで結晶中の水素配置を可視化
――効率的な水素貯蔵や新奇物性の開拓へ期待――
本所の小澤 孝拓 助教と福谷 克之 教授らによる研究グループは、量子ビームを用いた水素の構造解析手法を開発し、これまで困難であったナノ薄膜や表面近くの水素の格子位置を水素濃度%オーダーの精度で同定することに成功しました。チタン結晶中では、従来予想されていたものとは異なる水素配置によって構造が安定化していることを解明しました。また同位体を用いることで水素位置を制御できることを実証しました。水素位置の原子レベルでの制御による新たな物性開拓の道が開かれ、さらに高性能な水素吸蔵材料や固体電解質などの開発、水素の量子性の基礎的理解にも繋がることが期待されます。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4644/
テスラバルブの概念を固体熱伝導に拡張し、熱整流に成功
――フォノンの流体的性質を用いた新しい熱機能デバイスに期待――
本所のシン コウ 特任助教と野村 政宏 教授らは、高純度グラファイトで現れる熱を運ぶ粒子「フォノン」の流体的な性質を利用し、流体で用いられるテスラバルブの整流機能を、固体における熱伝導で初めて実現しました。理論的には、室温でもこの熱整流の効果が有効であり、スマートフォンやパソコン、LEDなどの発熱の大きな電子機器の熱管理に広く利用されることが期待されます。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4619/
軸索で結合させた大脳オルガノイドは複雑な神経活動を示す
――脳の発達と機能の解明に新たな手法を開発――
本所の池内 与志穂 教授(兼務:本学 Beyond AI研究推進機構、本学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻)らの研究チームは、ヒトの脳の複雑な神経回路網を再現するための新しいモデルを開発しました。ヒトiPS細胞由来の大脳オルガノイド同士を軸索で結合させた組織(コネクトイド)は、複雑かつ強い、同期した神経活動を示しました。また、光遺伝学的にオルガノイド間の神経束を刺激すると、神経活動の引き込みと短期的な可塑性が観察されました。本研究は、脳の領野間結合の発達メカニズムや機能の解明、および疾患治療法開発に新たなアプローチを提供します。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4505/
電気自動車のコネクティッドデータを活用した普通充電における「Plug & Charge」の実現
本所、ユアスタンド株式会社、日東工業株式会社、三菱自動車工業株式会社の4者は、電気自動車(EV)とEV用普通充電器の充電の利便性向上のため、充電専用カードやアプリを使わなくても充電できる「Plug & Charge」の実現に向けたEVのコネクティッドデータを活用する共同実証実験を実施しました。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4702/
溶融したチタンから酸素濃度の低いチタンを直接製造する革新的技術の開発
――チタン製品の爆発的普及へと期待――
本所の岡部 徹 教授、上村 源 助教(研究当時、現:米国マサチューセッツ工科大学 博士研究員)、池田 貴 特任研究員、大内 隆成 講師らは、希土類金属とそのフッ化物を用いることで、酸素を含む溶融したチタンから0.02質量% (200 mass ppm O) 程度の低濃度まで酸素を除去できる革新的な技術を開発しました。本技術により、チタンの酸化物鉱石や酸素を多量に含むチタンのスクラップから、中間化合物を経由せずに、高純度の金属チタンを製造することが可能となるため、チタンの生産コストが劇的に低下し、チタン製品が爆発的に普及することが期待されます。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4540/
デザイン主導の市民参加型科学研究の可能性
――環境問題へ親子参加で行動変容を促す新しい STEAM 教育プログラム――
本所 附属価値創造デザイン推進基盤の左右田 智美 助教らの研究グループは、親や教師を含む地元の大人たちの支援を受けながら、子どもたちを対象とし、海洋マイクロプラスチックをテーマとした、市民科学・STEAM教育プログラムを企画・実施しました。市民科学プログラムの研究では、ほとんど調査されることのなかった、地元の子どもたちと親との家族的な関わりに注目したことが新規な点です。デザイン研究者が長期的に地域と関わり、市民と一緒にデータを取りながら解決策を考える方法の効果の可能性が観察された点で、STEAM教育や市民参加型科学研究の発展に貢献することが期待されます。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4681/
EV 充電から解放、走り続けられるモビリティ社会像を提示
――市街地で「無限走行」を実現させる走行中ワイヤレス給電の最適配置――
電気自動車(EV)の普及を妨げていた短い航続距離と長い充電時間の課題に対し、本所の本間 裕大 准教授らの研究チームは、市街地における電気自動車(EV)の無限走行を実現するためのワイヤレス給電システム(DWPT)の最適配置を、数理最適化と詳細な交通シミュレーションに基づき精緻に導出しました。埼玉県川越市を対象に解析した結果、全道路長約150kmの1.6%未満(2,359m)にDWPTを敷設するだけで、EVが充電待ちなしに市内全体を移動できることが判明しました。交通量や信号停止時間に応じた設置戦略を示し、信号パターンや待ち行列の変動を反映した最先端の数理モデルで、DWPTが都市部における低炭素モビリティの要となることを提言します。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4669/
既存建築物の ZEB化を支援する無料シミュレーションツールを公開
――建物の ZEB 化における経済性を“見える化“し、カーボンニュートラルの実現を加速――
本所 エネルギーシステムインテグレーション社会連携研究部門の岩船研究室は、建物所有者や管理者向けに、既存建築物のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化に必要な改修費用や省エネ効果を簡単に試算できるWebツールを開発し、無料で公開しました。算出モデルは全国のZEB化事例を統計分析して開発されており、実態に即した推計が可能です。本ツールの利用データを収集・分析することで、より精度の高い経済性評価手法の確立を目指します。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4703/
1995年に、本所とフランス国立科学研究センター(CNRS)との間に設立された国際共同研究組織「LIMMS(Laboratory for Integrated Micromechatronic Systems)」は、2025年に30周年を迎えます。MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)を軸に、世界に先駆けて国際連携のモデルを築き、継続的な共同研究を展開してきました。
1.信頼の醸成が連携継続の鍵
LIMMSでは、共同研究の開始に先立ち、およそ1年をかけて日仏の研究室間で研究テーマの協議を重ね、相互理解を深めます。30年の経験に基づく手厚い受入れ体制も整っており、渡日した研究者はすぐに研究に集中でき、限られた滞在期間で大きな成果を上げています。設立当初にLIMMSに所属していた若手研究者たちは、現在ではそれぞれの分野を牽引する存在となり、本所の国際ネットワークを支えています。彼らが次世代の研究者をLIMMSに推薦することで、国境と世代を越えた頭脳循環も実現しています。こうした信頼の醸成と継続的な交流こそが、LIMMSの強みです。
2. 時代を先読みし、柔軟に進化する研究戦略と組織
LIMMSでは、定期的に研究戦略を見直しています。MEMSを核に、時代を先読みして、バイオ、エネルギー、量子技術など新たな研究領域へと拡張してきました。このような戦略的な進化を支えているのが、多様な領域をカバーし、異分野との連携を貴ぶ、本所の学際的な環境です。CNRSと本所の強固な信頼関係を基盤に、人文・社会系を含む本学の他部局やフランスの他大学との新たな連携も始まろうとしています。
北海道大学
帯広畜産大学
東北大学
弘前大学
筑波大学
群馬大学
千葉大学
東京大学
東京外国語大学
東京科学大学
一橋大学
新潟大学
富山大学
金沢大学
信州大学
静岡大学
名古屋大学
京都大学
大阪大学
神戸大学
鳥取大学
岡山大学
広島大学
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愛媛大学
高知大学
九州大学
佐賀大学
長崎大学
熊本大学
琉球大学