難治疾患研究所は、1973(昭和48)年に設置された“難治疾患”という名称を掲げる唯一の国立大学法人附置研究所です。本研究所では、難治疾患を「病因・病態が明らかにされていないために未だ有効な診断法、治療法、予防法が確立されていない疾患」と定義し、その克服のため基礎から応用まで幅広い研究活動を展開しています。時代の要請に応じられるように新しい研究技術と生物学的知見を取り入れ、基礎医学領域の最前線で活躍をしてまいりました。
2022年4月には研究所内の組織再編を行い、新たに「未来生命科学研究部門」「病態制御科学研究部門」「バイオデータ科学研究部門」の3つの部門で、本学の指定国立大学法人化に伴い掲げられた4つの重点研究領域(「創生医学研究」「難治疾患研究」「口腔科学研究」「データサイエンス」)の推進に貢献し、難治疾患研究のHub Instituteを目指しています。
東京医科歯科大学(現:東京科学大学) 難治疾患研究所 神経炎症修復学分野の中村 朱里大学院生、酒井 誠一郎助教、七田 崇教授らと、東京大学大学院医学系研究科の村上誠教授らの研究グループは、東京都医学総合研究所、慶應義塾大学との共同研究で、脳梗塞後に産生される脂肪酸代謝物が脳梗塞巣周辺部に生き残った神経細胞に作用してシトルリン化酵素PADI4の発現を誘導し、PADI4によるヒストンタンパク質がシトルリン化されることによって神経修復で働く遺伝子の発現が増加する新たな神経修復メカニズムを発見しました(図1)。また、PADI4の発現を誘導する神経修復性の脂質を脳梗塞モデルマウスに投与すると、脳梗塞後の神経症状が改善されることを示しました。この研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」およびAMED-PRIME「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」、文部科学省科学研究費補助金、東レ科学振興会、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、MSD生命科学財団、千里ライフサイエンス振興財団、小野医学研究財団の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Neuronに、2023年7月24日にオンライン版で発表されました。
【論文情報】
掲載誌:Neuron
論文タイトル:PLA2G2E-mediated lipid metabolism triggers brain-autonomous neural repair after ischemic stroke
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