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富山大学和漢医薬学総合研究所

Institute of Natural Medicine, University of Toyama
  • 第2部会

研究所・センターの概要


所長
東田 千尋
Tohda, Chihiro
キーワード
和漢薬、伝統薬物、漢方医学、薬用資源開発、天然物化学、神経変性疾患、生体防御、生活習慣病、未病、データベース
住所
〒930-0194
富山市杉谷2630

和漢医薬学総合研究所は、先端科学技術を駆使して、和漢薬をはじめとする伝統医学や伝統薬物を科学的に研究し、東洋医薬学と西洋医薬学の融合を図り、新しい医薬学体系の構築と自然環境の保全を含めた全人的医療の確立と、健康長寿社会の形成に貢献することを使命としています。世界的に問題になっている高齢化の進行、多因子性疾患の増加、及び天然資源の枯渇を鑑み、高齢者疾患対策研究、代謝・免疫疾患対策研究、未病医療・創薬研究及び資源開発研究を重点研究プロジェクトとして推進し、その成果を社会実装することを目指しています。これらの目標を達成するため研究開発部門の4部門5分野1センターが互いに連携し、臨床研究への橋渡しを目指した基礎研究や新規メカニズムに基づく創薬基盤の構築を目指した研究を行っています。

令和6年度の研究活動内容及び成果


ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスは軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の認知機能を改善させる

富山大学和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域の稲田祐奈助教、東田千尋教授、富山大学医学部神経精神医学講座の笹林大樹講師、鈴木道雄(前)教授の研究グループは、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病の被験者を対象に、ジオスゲニンを高濃度含有するヤマイモエキスの効果を偽薬(プラセボ)群と比較する、ランダム化二重盲検試験を特定臨床研究として実施しました。
解析対象となった被験者は38名であり、平均年齢は74.6歳でした。ランダムに2群に分け、ジオスゲニンを高濃度含むヤマイモエキス試験薬、または偽薬のいずれかを24週間投与しました。投与前、投与12週間後、投与24週間後において、認知機能評価と、血液中のバイオマーカーの定量評価を行い、群間比較解析しました。
主要評価項目とした認知機能テストADAS-Cog※1での評価結果では、その総得点、Praxis領域(日常生活に必要な行為の理解)および記憶領域において、改善/維持された人数と悪化した人数を比較したところ、ヤマイモエキス投与群では「改善/維持した人数」が「悪化した人数」を大きく上回りましたが、偽薬投与群では「改善/維持した人数」と「悪化した人数」が同程度でした。
ADAS-Cogの、Praxisスコアは、24週間のヤマイモエキス投与によって程度は大きくはないものの有意に改善しました。また、投与後12週から24週間目にかけて、脳中の神経細胞の軸索が維持されていることを示す血漿NfL※2の値が、ヤマイモエキス投与群で改善しました。
病態の重症度別にみると、軽度認知障害の被験者における、ADAS-Cogの総合点と記憶領域、血漿NfLの値が改善しました。
ヤマイモエキスを投与された被験者のうち、認知機能試験MMSE-Jの点数が改善した被験者では、脳内のアミロイドβ※3の低下を示唆する血漿Aβ42/40の増加が見られました。また、脳内の軸索維持を示唆する血漿NfLの値が改善していた被験者では、認知機能が改善していることも示されました。安全性の評価では、ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスの投与に関連する有害事象は見られませんでした。
以上の結果より、ジオスゲニン高濃度ヤマイモエキスは、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病に対し、認知機能改善効果と脳内の軸索を維持する作用を有することが示されました。

【用語解説】
※1)ADAS-Cog
The Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitionの略称。薬物の治療効果を判定する場合に用いられる代表的な認知機能検査の一つである。単語再生、口頭言語能力、言語の聴覚的理解、自発話における喚語困難、口頭命令に従う、手指及び物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認、テスト教示の再生能力の11項目によって認知機能を評価する。
※2)NfL
Neurofilament L(ニューロフィラメント軽鎖)の略称。NfLは中間径フィラメント(intermediate filaments)に分類されるタンパク質で、神経細胞の軸索内に存在し、神経細胞の形状を維持し神経信号の伝達をサポートする。脳内で神経細胞の軸索が変性(壊れる)と、脳内のNfL濃度は減少し、血漿中や脳脊髄液中ではNfL濃度が増加する。よって血漿中NfLを測定することにより軸索変性を間接的に評価できる。
※3)アミロイドβ
アルツハイマー病の原因物質であり、人の場合では認知機能障害が発症する20年近く前から脳内での蓄積が始まる。40あるいは40アミノ酸からなるペプチドであるが、オリゴマーや凝集体となり神経細胞に障害を与える。アルツハイマー病が進行すると、脳の中でのアミロイドβ42/アミロイドβ40の比が増加し、血漿中では逆に減少する。よって、血漿中のアミロイドβ42/アミロイドβ40比を測定することにより、脳内のアミロイドβ量の変化を間接的に推測できる。

【論文詳細】
論文名:
Diosgenin-rich Yam (rhizome of Dioscorea batatas) extract ameliorates cognitive functions and plasma biomarkers for mild cognitive impairment and mild Alzheimer’s disease: A randomized controlled trial
著者:
Yuna Inada1, Chihiro Tohda1, Daiki Sasabayashi2,3, Michio Suzuki2,3
所属:
1) 富山大学・和漢医薬学総合研究所・神経機能学領域
2) 富山大学・医学部・神経精神医学講座
3) 富山大学・アイドリング脳科学研究センター
責任著者:東田千尋

社会との連携


本研究所・和漢医薬教育研修センターの柴原直利教授が富山大学公開講座「健康と漢方医学」(教養講座)及び「薬局調剤のための漢方実践講座」(実践講座)を企画し、健康長寿社会の実現に向け、地域社会や一般市民等に漢方医学の知識の普及を図っています。同センターでは富山県内の医師・薬剤師など医療関係者にリカレント教育の場として定期的に漢方診断研究会を開催しています。その他、本研究所の教員10名が各々の基礎研究とそこから生まれる世界を分かりやすく講義する「和漢医薬学を学ぶ」(教養講座)を企画し、幅広い世代の一般市民が受講しました。
また、飛騨市薬草ビジッレ構想推進プロジェクト主催の市民公開講座では「和漢薬と健康」をテーマに本研究所の教員4名が講義を実施し、今後も飛騨市との連携を図っていく予定です。

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