グローカル感染症研究センターは、複雑かつ困難である感染症克服という課題に対し、解決のための新たなビジョンを提示し、その実現を目指しています。当センターは、「インバウンド・アウトバウンド医学」「ワンヘルス」「感染症病態」「ゲノムワイド感染症」の4つの研究部門を有し、ウイルス学、細菌学など微生物感染による病態基盤の解明や、それらのゲノム情報解析やそこから得られる知見に基づいた感染症病態の包括的解明、本学の強みである創薬(予防・治療薬開発・治験)も含めた基礎研究から臨床までの一連の領域をシームレスに連携させ、日本国内のローカルな感染症からグローバルな感染症までを見据えた総合的な感染症研究を実施しています。
また、教育面では大分大学医学系研究科や、大分県とも連携し、感染症教育・人材育成を進めています。
センターの当面の活動目標に関して、これまでに本センターで実施してきた病原体や宿主に着目した本学の感染症研究での強み・特色となる部分を核とし、特に臨床への実装を見据えた創薬研究・前臨床試験、消化器内視鏡技術の共同利活用も念頭に置いて、「感染症×環境等」(生活・生存環境や人種、食習慣、地域性、自然災害との関係等)という新たな視点により多層的に感染症研究を展開し、「総合知」に基づく多(他)領域融合型研究を推進することを定めました。
この目標達成のために、これまでに培ってきた海外フィールド、バイオリソース、創薬研究・前臨床試験、消化器内視鏡技術のノウハウを生かし、「消化器系感染症病態研究」「ワンヘルス研究」「行政との感染症研究連携」の3つの柱を立て、多(他)領域融合型研究を推進する新たな感染症研究のプラットフォームを構築します。
山岡吉生教授を研究代表者とするスウェーデンとの共同研究をもとに、AMED事業(医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業(先端国際共同研究推進プログラム ASPIRE))を実施しています。このプログラムは国際共同研究を通じて我が国と科学技術先進国・地域のトップ研究者同士を結び付け、我が国の研究コミュニティにおいて国際頭脳循環を加速することを目指すものです。
また、ブータンにおいてSATREPS事業「ピロリ菌感染症関連死撲滅に向けた中核拠点形成事業」を実施しました。この事業は、内視鏡検査および迅速検査製造のキャパシティーディベロップメントを通し、ブータンにおけるピロリ菌感染症の全国調査を実施することを目的としており、特に現地の医師、研究者の人材育成に重点を置き、彼らが現地で独立した医療・研究を行えるような指導を行っています。
わが国では初となるヒトロタウイルスG3P[6]株(SO1199株)を千葉県の小児下痢症患児から検出しました。世界的にヒトG3P[6]株の検出は稀であり、特にアジアにおけるG3P[6]株の起源と進化についてはよく分かっていません。SO1199株を対象に全ゲノム解析したところ、SO1199株の11本の遺伝子型はG3-P[6]-I5-R1-C1-M1-A8-N1-T1-E1-H1であり、I5とA8はブタロタウイルスに特徴的な遺伝子型でした。また、系統樹解析の結果から、11遺伝子すべてがヒトロタウイルス株よりも、ブタロタウイルス株あるいはブタ由来ヒトロタウイルス株に近縁であることが明らかになりました。SO1199株は、これまでに報告されたどのヒトG3P[6]株とも近縁関係を示さない一方で、わが国のブタロタウイルスBU8株(G4P[6])やBU9株(G9P[23])と密接な近縁関係を示したことから、SO1199株はわが国で新たにブタからヒトへの種間伝播が起きた結果であると考えられました。本研究で得られた知見は、ヒトG3P[6]株の起源と進化の理解に貢献するものと考えられます(Infect Genet Evol 2023)。
本学の狂犬病に関する専門知見を活かしてフィリピンの狂犬病対策に役立てるためにグローカル感染症研究センターのグループを中心にSATREPS事業「フィリピンにおける狂犬病排除に向けたワンヘルス・アプローチ予防・治療ネットワークモデル構築プロジェクト」を実施しており、令和5年度に最終年度を迎えました。主な活動としては、大分県の企業と開発した狂犬病抗原検査キットの有用性の検証を行い、現地の獣医系検査室に普及させることで、遠隔地域でも迅速な狂犬病診断を可能としました。さらに、得られた診断情報を周辺住民に迅速に周知するための情報共有システム(Rabies Data Share System: RaDSS)をフィリピンの農業省動物局と共同で開発し、ヒトの狂犬病発症予防・治療に役立てました(狂犬病ネットワークモデル)。本プロジェクトの社会貢献活動としては、狂犬病診断のための検査室の導入、狂犬病ネットワークモデル研修会の開催、一般の人に向けた狂犬病の知識の普及に取り組んできました。また、研究活動としては、動物の狂犬病に対する新規診断方法の開発、動物狂犬病の疫学調査、ヒトの狂犬病の臨床研究や狂犬病発症前バイオマーカーの探索を実施し、これらの成果は学術論文として国際誌に掲載されました。
予防・治療薬開発を含めた創薬研究など、基礎から臨床までの一連の領域をシームレスに連携させ、多(他)領域融合型研究を推進する研究開発プラットフォームの構築のための新棟が、令和6年2月末に完成しました。挾間キャンパス臨床研究棟北側に、全国共同利用のための実験室、研究室を整備し、4階建、延べ床面積968.10㎡となります。
大分大学グローカル感染症研究センターでは、グローバルな新興・再興感染症研究を進める一方で、大分県や九州地区に多く存在する感染症研究の推進、県内自治体・企業との連携による共同研究の推進や人材育成にも力を入れています。この度、大分県衛生環境研究センターなどの行政機関との連携を強化し、さらなる研究推進や、今回の新型コロナウイルスのような新興感染症発生時の対応に備えるため、令和5年12月15日に大分県生活環境部との間で連携協力協定を締結しました。
地域との協働は本センターの重要なミッションの1つであり、今後はダニや野生動物を媒介する重症熱性血小板減少症候群などの感染症に関する研究や、薬剤耐性菌に関する研究、さらには有事の際に即応できる人材育成などに関して連携が進むことが期待されます。
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