本研究所は、名古屋大学に所属していた3つの研究組織(太陽地球環境研究所、地球水循環研究センター、年代測定総合研究センター)を統合して、2015年10月に創設された附置研究所です。全国でただ一つ、宇宙科学と地球科学を結び付ける共同利用・共同研究拠点として活動しています。宇宙地球環境研究所では、地球・太陽・宇宙を一体としたシステムとしてとらえ、そこに生起する多様な現象のメカニズムや相互関係の解明を通して、地球環境問題の解決と宇宙に広がる人類社会の発展に貢献することをミッションに掲げ、室内実験や地上/海洋/人工衛星観測、さらに、これらのデータ解析と理論/モデリングを組み合わせた研究を多角的に展開しています。7つの研究部(総合解析、宇宙線、太陽圏、電磁気圏、気象大気、陸域海洋圏生態、年代測定)からなる基盤研究部門と、融合研究戦略室、国際連携研究センター、統合データサイエンスセンター、飛翔体観測推進センターで構成される体制のもと、全国に附属観測所を配備し、世界の研究機関と学術協定を結んで、国際的な拠点活動を展開しています。
南極内陸域には有人観測基地がほとんどなく、地球上でもっとも気象観測データが不足している地域です。自動気象観測測器(AWS)を使った無人観測も行われていますが、定期的な保守・点検ができず誤データや系統的な誤差を観測データが含んでいるため、データは未利用のままとなっていました。宇宙地球環境研究所の栗田直幸准教授らは、日本の南極観測研究で行われたる無人気象観測データを収集して品質管理(誤データの排除や系統的な誤差を減らす補正)を行い、過去30年間にわたる高精度気温データセットを作成しました。本データセットは、気候変動の検出に必要な精度を満たしており、未解明なままとなっている南極ドームふじ基地周辺における温暖化影響の実態把握に貢献すると期待されています。
論文情報:
Kurita, N., T. Kameda, H. Motoyama, N. Hirasawa, D. Mikolajczyk, et al., Near-Surface Air Temperature Records over the Past 30 Years in the Interior of Dronning Maud Land, East Antarctica. J. Atmos. Ocean. Technol. 41, 179–188 (2024).
DOI:10.1175/JTECH-D-23-0092.1
太陽で発生するフレアやコロナ質量放出は大量の高エネルギー粒子を放出します。これらは宇宙空間で致死レベルに達する宇宙放射線被ばくの原因となる場合もあるため、月や火星での有人活動を安全に行うためにはその発生と影響を的確に予測することが求められています。宇宙地球環境研究所では富士通株式会社と協力し、そのための産学共同研究を開始しました。
本年度は本研究所が開発した太陽フレア予測スキームと富士通が開発した説明可能なAI「Wide Learning™」を連携させることで、宇宙放射線の急増をもたらす太陽高エネルギー粒子(SEP)事象の原因となり得る太陽フレアの性質を評価しました。その結果、SEP事象の原因となり得るフレアの位置、規模、継続時間及びその履歴に関する条件の組み合わせを明らかにする成果を得ました。また、⿊点周辺の3次元磁場モデルに基づいた自由エネルギー推定値や安定性パラメータを⽤いることで、SEP事象の発生予測を向上させることができることを確認しました。これらの成果は安全な宇宙開発のために必要な高度な宇宙天気予報の実現に資するものです。
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