京都大学経済研究所は1962年4月に、産業経済に関する総合研究を目的として設立され、現在は理論経済学関連の主要経済学分野を中心に、日本の経済学研究の先導的役割を果たしています。同時に、本研究所は実用科学的側面での経済学の発展にも力を入れ、2005年度に中央官庁との連携の下で先端政策分析研究センターを設置し、理論と実証の両面からエビデンスに基づく政策研究を推進しています。2010年度からは、共同利用・共同研究拠点「先端経済理論の国際的共同研究拠点」として文部科学省の認可を受け、研究資源を広く内外の研究者コミュニティに向けて提供し、世界の経済学の発展に貢献しています。若手研究者の養成にも積極的に取り組み、国内の他の研究機関に先駆けてテニュアトラック制度を導入し、約15年間にわたり国際的な公募を行ってきた結果、外国人所員の採用数が着実に増加し、国際色ある人員構成を達成しています。
本研究所では長年、ゲーム理論、複雑系経済学の理論研究とそれを支える計量経済分析を研究の柱とし、経済変動の解析や制度・組織の戦略的分析を進めてきました。最近の所員の研究テーマはこれに加え、家計行動の分析や取引仲介理論など、現実経済の実態把握や課題解決に直結するトピックを含みます。令和5年度は、共同利用・共同研究拠点において17件のプロジェクト研究と2件の国際会議を支援するなど、内外の研究者コミュニティとの連携を引き続き推進しました。また先端政策分析研究センターでは、財政、環境、資源、地域振興、コロナ感染症対策などの研究テーマについて、エビデンスベースの政策立案をキーワードに中央官庁との協働を進めています。令和5年度は、京都市における風疹検査促進に向けたナッジ研究や、医学と連携した人間科学パネルデータ構築およびそれを用いた社会科学研究という極めて新規性の高い研究プログラムについての調査を進めました。
より良い経済を作っていくためには、経済学の最新の知見を社会に向けて発信し続ける努力が必要です。そのために本研究所では、経済学の専門分野に関する先端的研究の紹介や、経済政策・科学技術政策などに知悉する内外の専門家の講演およびパネルディスカッションなどからなる、経済研究所シンポジウムを定期的に開催しています。近年のテーマは、「地域から脱炭素社会を築く」(令和4年)、「行動経済学をEBPMに活かす:ナッジの作り方」(令和5年)、「新型コロナ政策を振り返る」(令和5年)、「東日本大震災における原発事故による福島の損害賠償と復興~これまでの歩みとこれから~」(令和6年)などで、その時点の重要な社会課題に関する研究を、一般向けに広くかつわかりやすく発信することに努めております。またこれら活動は、先端経済政策分析センターの参画により、経済理論と政策形成の両側面から重要な現代的問題に焦点を当て、中央官庁との共同研究に繋げています。こうした活動を通じ、経済政策実務家や一般社会との意識共有を形成し、より良い経済社会の形成に貢献します。
本研究所は、世界レベルでの経済学研究の振興と、その研究成果の現実社会への応用や政策への実装のためのサービスに、常に取り組んでいます。その一つが、国際的な学術誌の出版・編集活動です。本研究所は、日本の研究者が中心となって編集する初の経済理論の国際誌International Journal of Economic Theoryの発刊を主導し、またJournal of Mathematical Economics, Pacific Economic Review, The Journal of Comparative Economic Studiesなど、経済学の各分野で世界的に評価されている学術雑誌で、所員が編集に携わってきました。また、国際学会の開催にも関わっており、世界最大規模の経済学学会であるEconometric Societyの平成28年のアジアミーティングでは、本研究所所員が共同チェアとプログラム委員を務め、令和5年には意思決定理論分野で最大規模の国際学会であるRisk, Uncertainty & Decisionのアジア地区での初開催を、本研究所が運営しました。
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