本研究所は、1982年に発足して以降、生体恒常性の維持に重要な「生体防御」を研究の柱に据え、生命現象の本質や疾患発症のメカニズムに迫る多くの優れた成果を発信して参りました。2016年からは、トランスオミクス医学研究センターをコアに国内の3つの共同利用・共同研究拠点と協力して「トランスオミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業」に取り組み、その実践の場として、2018年にシステム免疫学統合研究センターを新設しました。このような実績をさらに発展させるべく、本研究所は2022年に高深度オミクスサイエンスセンターを創設し、ヒト生物学の理解につながる新たな生体防御研究を推進します。加えて本研究所は、2022年から6年間、共同利用・共同研究拠点「多階層生体防御システム研究拠点」の認定更新を受けており、引き続き最先端の研究機器やオミクス解析技術を国内外の多くの研究者に開放・提供します。
トランススケール構造生命科学分野の稲葉謙次教授らは、小胞体とゴルジ体における亜鉛イオンに依存した新しいタンパク質品質管理機構を発見しました。このシステムでは、ゴルジ体で分子シャペロンであるERp44がミスフォールドタンパク質を亜鉛依存的に捕まえ、小胞体に逆行輸送します。シスゴルジ槽でERp44に亜鉛イオンを渡す役割を担うのが亜鉛輸送体ZnT7です。一方、小胞体では亜鉛イオン濃度は低く保たれ、ERp44は亜鉛とミスフォールドタンパク質を解離します。そして小胞体シャペロンの働きにより、ミスフォールドタンパク質は立体構造修復を受けます。ERp44とは逆に、カーゴ受容体であるERGIC-53は小胞体でタンパク質を捕まえ、ゴルジ体へ順行輸送します。さらに、ゴルジ体で亜鉛イオン依存的にカーゴを解離することを突き止めました。クライオ電子顕微鏡により、ZnT7およびERGIC-53の立体構造を高分解能で決定することにも成功し、小胞体とゴルジ体を舞台とした亜鉛イオンに依存した新たなタンパク質品質管理機構の分子構造基盤が確立されました。
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