本研究所は、「がんに関する学理及びその応用の研究」を目的として、1967年にがん研究所として設立されました。以来、がんの基礎研究、研究成果に基づく臨床応用を通し、がんに関わる広範な先端的学問領域での研究推進と研究者の養成に努めています。とりわけ、「がん幹細胞」と「がん微小環境」に研究の焦点を当て、転移・薬剤耐性の制御を目指した研究を推進し、その成果を臨床へと応用する研究拠点として活動しています。2011年には、転移・薬剤耐性に代表される「がんの悪性進展過程」の制御という研究所の使命を明確にするために、「がん進展制御研究所」へと名称を変更いたしました。2015年には、これまでの活動を基盤とし、さらに次世代のがん研究を推進する目的で、「先進がんモデル共同研究センター」を発足させ、国内外の共同研究推進の核として活動しています。
我が国において、胃がんはその高い罹患率からがんによる死亡原因の第3位であり、毎年4万人以上の患者さんが胃がんにより命を落としています。胃がんは早期での自覚症状がほとんど無い一方、進行した場合は根治が難しく、画期的な治療法の開発が望まれ続けています。本研究所では、胃上皮組織のみで遺伝子変異を誘発できるマウスモデルを開発することで、悪性度の高い胃がんの発生・浸潤・転移を再現できる新たな胃がんマウスモデル(C18-AKT)の樹立に成功しました (図1)。また、その腫瘍から生体内の組織構造を模倣できる3次元細胞塊 (オルガノイド)を樹立し、それらをマウスの胃に移植することで胃がんの転移を迅速に再現できる解析系の開発に成功しました(図2 上)。これらの解析系を用いることで、Wntシグナルの標的遺伝子として知られるLgr5遺伝子を発現する胃がん細胞が、胃がんの発生・進行に必須な胃がん幹細胞であることを突き止めました。さらに、Lgr5陽性胃がん幹細胞を除去しつつ、既存の抗がん剤 (5-フルオロウラシル)を併用することで、マウス生体内で胃がんの進行・転移を効果的に抑制できることを明らかにしました (図2 下) (Fatehullah A., Terakado Y. et al., Nat. Cell Biol., 2021)。
この結果は、ヒト胃がん組織にも存在するLGR5陽性胃がん細胞を標的とした治療法の開発に大きな臨床的意義があることを示唆しており、転移性胃がんに対する画期的な治療法の開発に貢献することが期待されます。
がんは、日本人の死亡原因の1位であり、3人に1人ががんで亡くなっています。特に、遠隔臓器への転移や薬剤耐性が原因となる再発に代表される「がんの悪性化進展」を制御することは、がんの克服にはとても重要な課題です。本研究所では、基礎研究で得られた成果を基に、創薬研究や臨床研究(治験)などのトランスレーショナルリサーチを推進することにより、社会に還元することを目指しています。また、本研究所での最新の研究成果を紹介する市民公開講座の開催、高校生を対象としたがん研究紹介に加え、がんについての正しい知識を伝えるがん教育にも力を入れています。今後も、新たな研究シーズの発掘・育成、産学連携によるがん創薬の推進、トランスレーショナルリサーチという一連の活動をいっそう加速化させ、国民の健康維持増進、福祉の向上に寄与したいと考えています。
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