研究所・研究センター一覧

東北大学電気通信研究所

Research Institute of Electrical Communication, Tohoku University
  • 第1部会
  • 共同利用・共同研究拠点

研究所・センターの概要


所長
羽生 貴弘
Hanyu, Takahiro
キーワード
計算システム基盤、情報通信基盤、人間・生体情報システム、 ナノエレクトロニクス・スピントロニクス、ブレインウェア、 サイバー・リアル空間
住所
〒980-8577
宮城県仙台市青葉区片平2-1-1

 本研究所は、八木・宇田アンテナやマグネトロンなど、1930年前後の本学工学部電気工学科における電気通信の先駆的研究の高まりを背景に、1935年、附属電気通信研究所として設置されました。迅速なシステム実現・社会実装に向けた研究体制の強化とコミュニケーションの未来を見据えた改組を2023 年4月に実施し、20余の研究分野から構成され20年のホライズンの研究を行う3研究部門、10年のホライズンで活動する 2研究施設、5年のホライズンを特化して行う研究開発センターの3体制を整えております。2023年度には新しく研究センターと共創研究所が1つずつ活動を開始します。本研究所は、情報通信分野唯一の共同利用・共同研究拠点として研究者コミュニティに開かれた共同研究を推進し、国内外の研究者と連携して「人間性豊かなコミュニケーションを実現する総合的科学技術」の研究を行い、先導的役割を果してまいります。

令和4年度の研究活動内容及び成果


人間性豊かなコミュニケーション実現に向けた研究
新たなエレクトロニクスの実現に向けた機能性スピントロニクス材料・素子研究

現行のエレクトロニクスの延長では到達困難な情報処理性能、エネルギー効率を実現し、低炭素社会、カーボンニュートラルの達成へ貢献することを目指し、機能性スピントロニクス材料・素子の研究開発を推進しています。また,スピントロニクス分野で世界的権威であるÅkerman先生を教員に迎え、さらなる研究加速への道を拓いています。

(1) スピントロニクス「P」コンピューター向け素子開発と物理的機構の解明

機械学習や組合せ最適化などを高速かつ省電力で解く「確率論的コンピューター(Pコンピューター)」を、自然の熱で状態が確率的に変化する確率動作スピントロニクス素子とプログラム可能半導体回路(Field Programmable Gate Array; FPGA)を用いて構築し、その性能を評価しました。組合せ最適化を例に、古典コンピューターで確率的アルゴリズムを実行した場合と比較し、Pコンピューターは約5桁高い演算性能と約1桁低い消費電力を実現できることを明らかにしました。

(2) 固体中の量子情報の保持時間を記述する法則の発見

固体中のスピン中心の量子ビットとしての性能を決める、位相緩和時間(T2)を支配する「一般化スケーリング則」を発見しました。これは、『実材料の T2を記述することはできるか?』という量子スピン物理研究 50年来の問題を解決するものです。発見した法則をもとに12,000種を超える材料の T2を予測し、新たな量子ビット材料の大規模かつ定量的な材料探索を行いました。本研究成果は、次世代の量子材料研究、新奇量子物性の探索に関する研究を基礎・応用の両面から大きく加速させるものです。

(3) 電気回路の基本要素「インダクタ」の新原理を提案

量子相対論効果である「スピン軌道相互作用」により、創発インダクタ機能が、より普遍的な(空間的に一様な磁気構造を持つ)磁性材料で生じることを理論的に明らかにしました。本成果により、創発インダクタは特殊な材料、狭い温度・周波数帯に限られた機能ではなく、様々な材料系で出現しうるものであることが明らかになり、量子現象による電力制御などへの展開も期待されます。また、本原理によれば、ゲート電圧によってスピン軌道相互作用を制御することで、従来のコイルインダクタでは必要な機械動作部品を用いない可変インダクタへの展望も開けます。今後、この原理の実証研究を推し進めることで、電子スピンを介したエネルギー変換現象に基づく、次世代の基盤量子技術の開発が切り開かれていくものと期待されます。

人間性豊かなコミュニケーション実現に向けた研究
(1) スピンエッジコンピューティングハードウェア基盤

今年度は、確率的計算モデルの大規模問題の高速解法への道を開きました。これは、stochastic computingに基づいて設計された大規模な確率的計算モデル(p-bit)において、高速な解法が可能なsimulated annealing (SA) に成功した成果です。本手法を用いたSAを、組合せ最適化問題の典型例である巡回セールスマン問題、最大カット問題(MAX-CUT)、グラフ同型性問題(GI)へ適用し、従来のSA法やD-Waveベース量子アニーリング(QA)との性能比較を行いました。その結果提案手法は、従来手法と比べ、数桁以上も高速に求解できる性能を達成しました。

計算機シミュレーションによる性能比較結果の例

計算機シミュレーションによる性能比較結果の例

(2) 次世代プラットフォームセキュリティ技術の開発と実証

現在世界で最も多く利用されるAES(Advanced Encryption Standard)暗号ハードウェアについて、世界最高効率を更新するハードウェアアルゴリズムを開発し、それを実証しました。また、機械学習を用いた世界最高感度の実装脆弱性解析技術を開発し、未対策実装にかかる攻撃コストから対策を施した場合の安全性を極めて高精度に推定することに世界で初めて成功しました。さらに、ハードウェアに挿入された不正な機能(ハードウェアトロイ:HT)を高速かつ漏れなく検知する技術を開発しました。開発した手法は、従来よりも大規模なハードウェアにも適用可能なスケーラビリティに加えて、不正機能が発動する条件まで同定することを初めて可能にしまさす。実用的な暗号ハードウェアに適用し、その有効性を実証しました。

暗号ソフトウェアの実装脆弱性解析例(開発した手法が最高感度を達成)

暗号ソフトウェアの実装脆弱性解析例(開発した手法が最高感度を達成)

開発した手法によるHT検知およびHT発動条件同定結果

開発した手法によるHT検知およびHT発動条件同定結果

社会との連携


社会との連携を深め、新しい可能性を探るための行事を毎年実施していますが、そのような活動の中から、2つの新しい研究拠点が設立されることになりました。1つ目は、企業と共同研究や人材育成などの共創活動を企画・実施するための連携拠点である共創研究所を設立し、令和5年度から新たに活動を開始することになりました。2つ目は、「非言語情報通信」による豊かな遠隔コミュニケーションの研究開発を加速的に進めるため、サイバー&リアルICT学際融合研究センターを新設し、令和5年4月から活動を開始することになりにました。このような新たな活動開始に繋がった2つの行事を紹介します。

東北大学電気・情報産学官フォーラム2022の開催

産学官フォーラム2022は、基調テーマを「人間性豊かなコミュニケーションの未来 Beyond 5Gそしてサイバー・リアルの融合へ」として、 3年ぶりの対面開催にオンライン配信を組み合わせたハイブリッド形式で、10月7日に開催されました。技術セミナーと講演会に加えて、一般の方向けに情報通信技術に関する特別講演、本学での産学連携に関する取り組みの紹介などもプログラムに加えました。

2022年度共同プロジェクト研究発表会の開催

東北大学電気通信研究所では、情報通信分野に関連するテーマに関して国内外の多数の優れた研究者とともに共同プロジェクト研究を企画・実施しています。本共同プロジェクト研究の成果発表会を2023年2月16日(木)に3年ぶりの対面とオンライン配信によるハイブリッド形式で開催し、189名の参加者を集めて活発な議論が行われました。また、電気情報通信分野の学術研究の発展に顕著な貢献があり、将来にわたり当該分野の発展に寄与することが期待される優秀な若手研究者に贈られるRIEC Award の授賞式も、併せて開催しました。

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