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東北大学金属材料研究所

Institute for Materials Research, Tohoku University
  • 第1部会
  • 国際共同利用・共同研究拠点

研究所・センターの概要


所長
古原 忠
Furuhara, Tadashi 
キーワード
材料物性、材料設計、物質創製、材料プロセス・評価、エネルギー材料、社会基盤材料、エレクトロニクス材料
住所
〒980-8577
宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
物質・材料研究の世界的中核拠点として

本研究所すなわち“金研”は、1916年、本多光太郎博士により、鉄鋼材料の自給という当時の社会的命題に答えるために設立され、2016年に創立百周年を迎えました。その100年の間、鉄鋼から金属全般、そして非金属へと研究領域を広げ、物質・材料の学術・応用研究の世界的中核拠点に発展しました。1987年には東北大学に附置したままで全国共同利用型の研究所に生まれ変わり、2009年には「材料科学共同利用・共同研究拠点」に認定されました。さらに、2018年11月には、「国際共同利用・共同研究拠点」に新たに認定され、材料科学分野の国際共同利用研究の一層の強化に取り組むとともに、環境・エネルギー、情報・通信、生体、高度安全空間など、最先端の科学・工学の基盤となる材料科学の学理の探求と応用を目的として、研究活動を推進しています。

令和3年度の研究活動内容及び成果


ガラス形成の謎に迫る ~金属ガラスのハイエントロピー化に伴う2つのガラス遷移温度のデカップリング現象を観測~

固体物理・材料科学における未解決問題として知られるガラス遷移現象は、急冷中の過冷却液体が熱力学的に安定な結晶固体へ凝固せず、長範囲規則性を持たないガラス固体に凍結する現象であり、その根本的な理解に向けて世界中で研究が進められています。金属ガラスは、高強度、高靭性、優れた軟磁性などで知られる一方で、構成原子が異方性の少ない金属結合によって、ほぼ無秩序に凝集した簡単な構造モデルで表されるため、ガラス遷移に関する基礎研究の対象材料としても大いに注目されています。東北大学金属材料研究所は、金属ガラスのハイエントロピー化を意図的に促進すると、比熱(熱力学)と粘性率(動力学)の変化から検出される2つのガラス遷移温度の間に存在する密接な対応関係が崩壊する“デカップリング現象”が生じることを初めて明らかにしました。今回の実験結果は、ガラス遷移現象の根本的な理解に向けて重要なヒントを与えるものです。
“Decoupling between calorimetric and dynamical glass transitions in high-entropy metallic glasses”, Nature Communications, doi.org/10.1038/s41467-021-24093-w

放射光でついに見えた磁気オクタポール ~熱を電気に変える新たな担い手~

物質中の電子が持つスピンを起源とする高い熱電変換効率や大きな異常ホール効果は、これまで電子スピンが揃った状態でのみ起こると考えられてきました。その一方で、スピンが互いに打ち消し合うように整列した反強磁性と呼ばれる状態でも大きな効果が報告されており、スピンは打ち消し合っているにも関わらず何らかの状態が打ち消し合わずに向きを揃えていると考えられてきました。これは「磁気八極子(磁気オクタポール)」として理論的に予測されていましたが、実験的には検出されていませんでした。東北大学金属材料研究所は、磁石のミクロな起源である電子スピンが互いに打ち消しあう反強磁性と呼ばれる状態の中に潜んだ「磁気八極子」を放射光X線実験から明らかにしました。今回検出された磁気八極子は、従来のスピンよりも高速制御が可能で、スピントロニクスデバイスなどの大幅な高速化にも貢献すると期待されており、新規なスピントロニクスや熱電変換機能を生み出す起源を探る新たな手法の提案であるとともに、放射光を用いたX線磁気分光や共鳴X線散乱の新たな可能性を拓くものです。
“X-ray study of ferroic octupole order producing anomalous Hall effect”, Nature Communications, doi.org/10.1038/s41467-021-25834-7

社会との連携


人工股関節用チタン合金製インプラントの開発と改善

東北大学金属材料研究所は本学医学系研究科および民間企業との共同研究で、大腿皮質骨のヤング率(10〜30 GPa)に近い36 GPaという世界最小値を示すチタン合金(TiNbSn)を開発しました。本合金は人工股関節用インプラント(ステム)に適用することで、応力遮蔽による廃用性骨萎縮の抑制が可能となり、2021年厚生労働大臣から薬事承認を取得しました。この合金は生体に安全な元素から構成されますが、インプラントステムは摺動時に摩耗粉を発生し、身体への悪影響が懸念されています。そこで、この合金に対し特定の電解浴で高圧・高電流密度の条件下にて陽極酸化を施し、基板密着性に優れ高硬度のTiO2を形成後に、疑似体液中で摺動摩耗試験を行いました。ステムに実用されているTi6Al4V合金にも同じ陽極酸化を施して比較した結果、TiNbSn陽極酸化材の方が低い摩擦係数を示し、高い耐摩耗性を見出しました。Ti6Al4V基板酸化膜は低硬度のアナタースTiO2が形成されポア密度の高い層と低い層が交互に積層するのに対し、TiNbSn基板酸化膜は高硬度のルチルTiO2を形成しポアが不均一に分布することが原因と考えます。このTiNbSn基板酸化膜は、骨伝導性や抗菌性も確認でき、 安全安心なインプラント治療に貢献すると期待します。
“Mechanical properties of anodized TiNbSn alloy for biomedical applications”, Materials Science and Engineering: A, doi.org/10.1016/j.msea.2021.141898

 

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