本研究所すなわち“金研”は、1916年、本多光太郎博士により、鉄鋼材料の自給という当時の社会的命題に答えるために設立され、2016年に創立百周年を迎えました。その100年の間、鉄鋼から金属全般、そして非金属へと研究領域を広げ、物質・材料の学術・応用研究の世界的中核拠点に発展しました。1987年には東北大学に附置したままで全国共同利用型の研究所に生まれ変わり、2009年には「材料科学共同利用・共同研究拠点」に認定されました。さらに、2018年11月には、「国際共同利用・共同研究拠点」に新たに認定され、材料科学分野の国際共同利用研究の一層の強化に取り組むとともに、環境・エネルギー、情報・通信、生体、高度安全空間など、最先端の科学・工学の基盤となる材料科学の学理の探求と応用を目的として、研究活動を推進しています。
資源として豊富なマグネシウムを用いるマグネシウム蓄電池(Rechargeable Magnesium Battery: RMB)は、安価で安全・高容量な次々世代蓄電池として期待されています。RMBの実現には、マグネシウムを円滑に挿入・脱離できる正極材料が必要ですが、マグネシウムは固体中を移動しにくいことが高性能な正極材料の開発を阻んでいました。
東北大学金属材料研究所は、マグネシウム以外に6種類の金属元素を混合することで、マグネシウムの移動を促す空間を安定かつ大量に含む構造の新たな正極材料を開発しました。この構造はマグネシウムの挿入・脱離が困難とされていましたが、これまでよりも低い温度で挿入・脱離が実現できることを実証しました。広範囲にわたり容易に入手可能なマグネシウムを用いた蓄電池が実現すれば、資源を巡る国際的競争の緩和など、持続可能な社会の実現への貢献が期待されます。
“Securing cation vacancies to enable reversible Mg insertion/extraction in rocksalt oxides”, Journal of Materials Chemistry A,
doi.org/10.1039/D3TA07942B
太陽電池は環境に優しいエネルギー源として過去数十年にわたり高い注目を集めてきました。太陽電池の中核をなす光を電気に変換する材料には、主に元素周期表14族(Ⅳ族)のシリコンが使われてきました。しかしシリコンは電気への変換効率が低いため、無害で安価な代替材料が長年望まれてきました。
東北大学金属材料研究所は、新たなシミュレーション手法を駆使して太陽電池材料の探索を行いました。その結果、1族(アルカリ金属)-15族(ニクトゲン)化合物であるアルカリニクトゲン化合物が適切なバンドギャップを有し、さらに軽い有効質量と高い光吸収係数を持つため、太陽電池材料として有望であることを発見しました。その中でも特にリン化ナトリウムが無害で安価な元素で構成されており、太陽電池材料に適していることを見出しました。また実際にリン化ナトリウムを合成してバンドギャップを測定した結果、計算値とよい一致を示しました。
太陽電池材料は、長年シリコンが主流でしたが、リン化ナトリウムは安価かつ無害な元素で構成されているため、実用化となれば社会に及ぼす影響は極めて大きく、今後、実用化に向けたさらなる開発が期待されます。
“Alkali Mono-Pnictides: A New Class of Photovoltaic Materials by Element Mutation”, PRX Energy,
doi.org/10.1103/PRXEnergy.2.043002
東北大学と、SWCC株式会社(神奈川県川崎市、代表取締役社長 長谷川隆代、以下「SWCC」)は2024年2月1日、東北大学片平キャンパス(金属材料研究所内)に「SWCC×東北大学 高機能金属共創研究所」(以下 共創研究所注)を設置しました。
東北大学の最先端材料の研究資源を最大限活用し、SWCCのパーパス“いま、あたらしいことを。いつか、あたりまえになることへ。”を軸とした持続的な社会の実現を目指した研究開発テーマの探索及び推進を行います。
SWCCでは仙台事業所(宮城県柴田町)に金属材料開発部門と銅合金線材の製造部門を持ち、モビリティー分野のヒーター線などの銅合金製品開発から製造までを一貫して行っています。共創研究所の設置により、数々の新物質・材料を創製してきた金属材料研究所を持つ東北大学での基礎研究、SWCCでの製品開発・製造までのプロセスを仙台地区に集約し、新製品開発や社会実装の加速が期待されます。
また、本取り組みにより合金設計や金属材料開発技術、金属加工技術の強化を進め、さまざまなソリューションへ展開します。そして、研究開発のみならず、共創研究所の幅広い共創活動を企画・遂行することにより、未来につながる技術研究開発の推進、学理の探究と応用の研究を通じ高度な材料科学研究者の育成も目指します。
用語解説
注. 共創研究所:大学内に企業との連携拠点を設けるとともに、大学の教員・知見・設備等に対する部局横断的なアクセスを可能とすることで、共同研究の企画・推進、人材育成、および大学発ベンチャーとの連携をはじめとする多様な連携活動を促進する制度。
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