帯広畜産大学原虫病研究センターは1990年に学内共同利用施設として設置され、2000年には全国共同利用施設として、また2009年には共同利用・共同研究拠点「原虫病制圧に向けた国際的共同研究拠点」として文部科学省に認定されました。一方、2008年には、原虫病分野では世界初の国際獣疫事務局(OIE)コラボレーティングセンターに認定されました。原虫病研究センターは、原虫病に特化した研究拠点として、国内外の最先端原虫病研究の先導役(先端研究)、地球規模での原虫病の監視制御の司令塔役(国際協力)、ならびに国内外の原虫病専門家の育成役(人材育成)を三大ミッションとしています。
トキソプラズマは世界人口の3分の1に感染していると試算されており、世界で最も感染者数が多い原虫です。日本においても約20%の国民に絶えず感染し、年間数百人の先天性疾患を引き起こしていると推測されています。先天性トキソプラズマ症の症状は胚死・吸収から不顕性感染まで多岐に渡りますが、発症機序は不明です。私達は先天性トキソプラズマ症の免疫病態を理解するために、実験マウスモデルの構築を行ってきました。Toll様受容体2(TLR2)は免疫細胞や胎盤に発現しており、妊娠期のトキソプラズマ感染による刺激により胎盤の組織傷害が誘導され、胎盤の機能不全による異常妊娠の誘導が確認されました。従って、本研究の成果はTLR2を標的とした先天性トキソプラズマ症に対する新たな治療法の開発につながることが期待されます。
マラリアなどの蚊に媒介される感染症を防ぐには、病原体の媒介者である蚊への対策が重要です。一般的にマラリアを媒介するハマダラカへの対策として殺虫剤ピレスロイドを用いた長期残効性防虫蚊帳(long-lasting insecticidal nets, LLINs)および屋内残留噴霧(Indoor Residual Spraying, IRS)が使用されています。しかしながら近年、多くの国でピレスロイドに対し抵抗性を示す蚊が出現しており大きな問題となっています。そこで我々は既存の化学合成殺虫剤に代わる新たな殺虫分子として生物毒に着目し、様々な種の昆虫・節足動物由来生物毒の殺ハマダラカ活性の評価を行いました。その結果サソリ由来毒素Tf2が最も優れた殺ハマダラカ活性を示すことを明らかにしました。 また、Tf2による殺ハマダラカ活性は電位依存性ナトリウムチャネルの持続開放によって惹起された神経毒性作用によるものと推測されました。今後、投与方法や合成コストの問題を解決する必要はあるものの、ハマダラカの防除に向けた全く新たな方策の提唱に繋がることが期待されます。
ウシのバベシア症は世界各国で畜産業に多大な経済被害をもたらしています。バベシアはウシの赤血球に寄生するため、赤血球からの原虫遊出から侵入に至るメカニズムを解析することは新規治療薬の発見に繋がります。本研究ではサイクリックGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)阻害剤C2及びML10がバベシアの赤血球遊出を阻害することを明らかにしました。これまで、バベシアの赤血球遊出にはカルシウムイオンが重要な働きをすることが分かっていましたが、その上流のシグナルは不明でした。今回の実験ではC2並びにML10がそれぞれ1 µM, 500 nMの濃度で原虫の遊出を強力に阻害し、原虫の増殖が停止しました。このことから、PKGから原虫細胞内のカルシウムイオン上昇に至るシグナルがバベシア治療薬の有望な標的となりうることが示唆されました。
当センターは、1995年から10ヶ月間のJICA課題別・国別研修コース(文科省-JICA合同事業)を実施しており、現在までアジア、アフリカ、中南米の42ヶ国から218名の研修員を輩出しました。また、センター設置当初(1990年)から約150名の海外からの大学院・研究生修了者が世界中に分布しています。これら海外OB・OGから構築された国際ネットワークは、今や当センターの教育研究活動を支える重要なインフラとなっています。この国際ネットワークをさらに強化する目的で、海外OB・OGを対象とした再教育プログラムも実施しています。このプログラムでは、毎年3-6名のOB・OG研究者を3-12ヶ月の期間で招聘し、現場での課題解決に焦点を当てた実践的国際共同研究を実施しています。また、当センターの教員が毎年海外に赴き、定期的にOB・OG研究集会を開催しています。令和3年度は拠点「マダニバイオバンク」プロジェクトのシンポジウムと共催で世界のOB・OGを対象にオンラインでの研究集会を開催いたしました。
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