帯広畜産大学原虫病研究センターは1990年に学内共同利用施設として設置され、2000年には全国共同利用施設として、また2009年には共同利用・共同研究拠点「原虫病制圧に向けた国際的共同研究拠点」として文部科学省に認定されました。一方、2008年には、原虫病分野では世界初の国際獣疫事務局(OIE)コラボレーティングセンターに認定されました。原虫病研究センターは、原虫病に特化した研究拠点として、国内外の最先端原虫病研究の先導役(先端研究)、地球規模での原虫病の監視制御の司令塔役(国際協力)、ならびに国内外の原虫病専門家の育成役(人材育成)を三大ミッションとしています。
ネオスポラの感染は畜産業に多大な経済的損失をもたらすことから、その対策には病態発症機構の解明が重要となります。ネオスポラ症の主徴は流産と神経症状であり、その病態には宿主の免疫応答が深く関わっています。今回、CXCR3ノックアウト(CXCR3KO)マウスを用いた感染モデルにおいてCXCR3の役割を解析し、CXCR3陽性制御性T細胞が脳病変の抑制に重要であることを見出しました。従って、過剰な炎症反応を適切に制御することで宿主動物の致死的な影響を回避できることが示され、新規ワクチンの開発につながることが期待されます。
バベシアがどのようにしてマダニの卵母細胞に侵入し、卵形成、胚発生を経て孵化した幼ダニ体内に潜伏できるのか、その分子機構は不明です。今回我々は、その一端を解明すべく、バベシア感染マダニを人工的に作出し、卵形成関連分子の遺伝子発現ならびにタンパク量について非感染マダニと比較しました。その結果、バベシア感染マダニの脂肪体および体液中に卵黄タンパク質前駆体(ビテロジェニン;Vg-2)が蓄積することを見出しました。さらに、Vg-2遺伝子発現抑制マダニにバベシアを感染させたところ、対照群のマダニに比べ、体液中のバベシアDNAレベルと卵巣におけるバベシア検出率が低下しました。これらのことから、バベシアのマダニ卵母細胞への侵入過程においてVg-2が重要な役割を担うと考えられ、本研究の成果は、Vg-2を標的としたバベシア伝播阻止法の考案に繋がると期待されます。
日本で飼育されているウシの多くにトリパノソーマ・タイレリーという原虫が感染しています。一般的にトリパノソーマ・タイレリーは低病原性とされ、その感染による経済被害は見過ごされていました。帯広畜産大学で飼養されている乳牛の血液検体およびその牛群検定を解析した結果、トリパノソーマ・タイレリーの感染によって飼料効率が低下することによって乳質が有意に低下する可能性が示唆されました。また牛群におけるトリパノソーマ・タイレリーの感染率には季節性があり、とくに媒介者となる吸血昆虫が多く発生し暑熱ストレスによってウシの免疫が低下する夏と北海道の厳しい寒さによる寒冷ストレスのよってウシの免疫が低下する冬に感染率が高くなることが分かりました。本研究によって乳牛の生産性を向上するために、トリパノソーマ・タイレリー感染対策が必要であることが示されました。
当センターは、1995年から国際協力機構(JICA)課題別・国別研修コース(JICA合同研修事業)を実施しており、現在までアジア、アフリカ、中南米の432ヶ国から232名の研修員を輩出しました。また、センター設置当初(1990年)から150名以上の大学院・研究生を海外から受け入れ、修了者が世界中で活躍しています。これら海外OB・OGから構築された国際ネットワークは、今や当センターの教育研究活動を支える最も重要な基盤となっています。この国際ネットワークをさらに強化する目的で、海外OB・OGを対象とした再教育プログラムも実施しています。このプログラムでは、毎年3名前後のOB・OG研究者を3-6ヶ月の期間で招へいし、現場での課題解決に焦点を当てた実践的国際共同研究を実施しています。また、当センターの教員とOB・OG研究者との共同研究に係る研究集会も開催しています。令和4年度は「マダニとマダニ媒介感染症の制御戦略」に関する第4回国際シンポジウムを開催しました。南アフリカ、ケニヤ、ウガンダ、タンザニア、ブルキナファソ、エジプト、トルコなどからの招へい者と国内の学外からの招へい者を含め計45名の研究者が参加しました。国内外からの研究者によるマダニとマダニ媒介感染症に関する最新の研究成果が発表され、活発な議論が交わされました。同国際シンポジウムは日本学術振興会拠点形成事業(アジア・アフリカ学術基盤形成型)の支援を得て開催されました。
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