「くすりの富山」の伝統を背景に設立された本研究所は、近年著しく発展した先端科学技術を駆使することにより、伝統医学・伝統薬物を科学的に研究し、東洋医学と西洋医学の融合を図り、新しい医薬学体系の構築と自然環境の保全を含めた全人的医療の確立に貢献することを使命としています。特に、世界的に問題になっている高齢化の進行、多因子性疾患の増加、及び天然資源の枯渇を鑑み、高齢者疾患対策研究、代謝・免疫疾患対策研究、未病医療・創薬研究及び資源開発研究を重点研究プロジェクトとして推進し、その成果を社会実装することを目指しています。これらの目標を達成するための組織として、4部門5分野、1センター、1資料館からなり、これらが互いに連携し、東西医薬学の融合を基盤とした次世代型医療科学を創生して、健康長寿社会の形成に貢献することを目指します。
本研究所・神経機能学領域の楊熙蒙助教と東田千尋教授は、かねてより、ヤマノイモ、ナガイモ(漢方では生薬の“サンヤク”として使われている)の成分として知られているジオスゲニンの認知症への効果を研究してきました。アルツハイマー病など認知症を根本的に治療するには“破綻した神経回路を再形成する”ことが非常に重要ですが、成体の脳においては、一度変性した(萎縮した)神経細胞の突起の修復は困難であり、特に軸索は、遠く離れた場所まで正しく再伸長して機能しなければならず、いったんダメージを受けた軸索を回復させることは、治療戦略としては実現不可能ではないかとされ、ほとんど着目されてきませんでした。しかし今回の研究によって、①アルツハイマー病モデルマウスの脳の中では、軸索が萎縮し、神経間のつながりが途切れてしまっているが、ジオスゲニンを飲むと、軸索は元の場所へ伸長しつながり、それによって記憶が改善すること
②ジオスゲニンによって軸索が正しく伸びる分子機序として、軸索上のSPARCが細胞外のI型コラーゲンと相互作用することを初めて明らかにしました。本研究成果は、根本的な認知症の治療に向けて画期的な一歩となるものです。
本研究所・和漢医薬教育研修センターの柴原直利教授が富山大学公開講座「健康と漢方医学」(教養講座)及び「薬局調剤のための漢方実践講座」(実践講座)を企画し、健康長寿社会の実現に向け、地域社会や一般市民等に漢方医学の知識の普及を図っています。同センターでは富山県内の医師・薬剤師など医療関係者にリカレント教育の場として定期的に漢方診断研究会を開催しています。その他、本研究所の教員11名が各々の基礎研究とそこから生まれる世界を分かりやすく講義する「和漢薬・漢方薬ちゃなんけ?一緒に考えてみんまいけ」(教養講座)を企画し、幅広い世代の一般市民が受講しました。
また、富山市教育委員会市民学習センター主催の富山市民大学講座「生活医学薬学を学ぶ」において本研究所の教員7名が和漢医薬学に関する講義を実施しました。
さらに飛騨市薬草ビジッレ構想推進プロジェクト主催の市民公開講座では「和漢薬と健康」をテーマに本研究所の教員5名が講義を実施し、今後も飛騨市との連携を図っていく予定です。
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