環境医学研究所は名古屋大学で最も長い歴史を持つ研究所(1946年創設)です。そのミッションは、「環境医学に関する学理及びその応用研究」にはじまり、時代の潮流や社会的要請に応じて「宇宙医学など特殊な環境下の健康科学」、「近未来環境がもたらす健康障害のメカニズム解明と予防法開発」と変遷してきました。現在は、神経系、内分泌・代謝、ゲノムを重点研究領域として、人体の恒常性維持機構やその破綻による疾患の発症メカニズムなどに関する基礎医学研究を展開しています。また、附属センターである「MIRAIC-未来の医学研究センター」と「産学協同研究センター」では、所外研究者との連携・次世代若手研究者の育成・先進製薬企業等との産学連携による実践的創薬研究を進めることにより、様々な健康障害に対して有効な予防法・治療法を確立することを目標に研究を行っています。
自己免疫疾患は、自己に対する抗体産生や炎症などの免疫系の過剰反応によって発症します。全身性エリテマトーデス(SLE)は代表的な自己免疫疾患であり、国内の推定患者数は6〜10万人に上りますが、根治療法が確立されておらず、病態の発症や促進のメカニズムの全容も未解明です。従来の非特異的な免疫抑制療法は、感染症罹患などの致命的な副作用になること、近年、B細胞および抗体産生細胞を標的とした抗体製剤が臨床応用されているものの、初期治療としては用いられず、治療効果が認められない症例も多いことから、SLEの病態解明と新規治療法の開発が求められています。
本研究では、多因子疾患であるSLEの環境要因として、脂質代謝異常に着目しました。異なる病因によって発症する2種類のSLEモデルマウスを用いて、魚油に多く含まれるオメガ3多価不飽和脂肪酸・エイコサペンタエン酸(EPA)を経口摂取させたところ、自己抗体産生や腎糸球体への免疫複合体沈着などのSLEに特徴的な病態を改善することを見出しました。このメカニズムとして、EPAはB細胞に取り込まれて膜の脂質組成を変化させ、抗体産生細胞への分化を抑制することを明らかにしました。またEPAは、抗原提示細胞において産生されるSLE病態進展に関わるサイトカインの産生抑制することを明らかにしました。本研究により、自己免疫応答における脂肪酸代謝の意義の一端が解明されました。EPAは魚油の主成分であり、日常の食生活に取り入れられること、また高脂血症治療薬として既に臨床応用されており、安全性が確認されていることから、EPAの摂取がSLEにおける新たな予防法・治療法となることが期待されます。(Kobayashi A and Ito A et al. 12: 650856, 2021)
■企業との連携
環境医学研究所は複数の製薬企業や医療機器メーカーとの共同研究、共同開発を推進し、私たちが保有する技術や知財の実用化を通して社会還元を図っています。その成果としてこれまでに複数の創薬ベンチャーや医療関連技術ベンチャー企業を排出してきました。
■市民との対話
私たちは毎年市民公開講座や研究所公開を実施して研究所で行われている先端研究を市民の皆様にわかりやすく説明しております。また、大学が実施する各種公開セミナーにも積極的に協力し、いずれも好評をいただいております。
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