環境医学研究所は名古屋大学で最も長い歴史を持つ研究所(1946年創設)です。そのミッションは、「環境医学に関する学理及びその応用研究」にはじまり、時代の潮流や社会的要請に応じて「宇宙医学など特殊な環境下の健康科学」、「近未来環境がもたらす健康障害のメカニズム解明と予防法開発」と変遷してきました。現在は、神経系、内分泌・代謝、ゲノムを重点研究領域として、人体の恒常性維持機構やその破綻による疾患の発症メカニズムなどに関する基礎医学研究を展開しています。また、附属センターである「MIRAIC-未来の医学研究センター」と「産学協同研究所」では、所外研究者との連携・次世代若手研究者の育成・先進製薬企業等との産学連携による実践的創薬研究を進めることにより、様々な健康障害に対して有効な予防法・治療法を確立することを目標に研究を行っています。
アルコールは肝臓でアルデヒドに代謝され、ALDH2によって無毒化されます。日本人の約4割が持つALDH2遺伝子の一塩基多型(rs671)は、アルデヒド分解能を低下させます。研究グループは以前、ALDH2とADH5が同時に機能しなくなることで発症する希少な遺伝病「AMeD症候群」を報告しました(Oka et al., Sci Adv 2020)。
DNA-タンパク質間架橋(DPC)は細胞内の一般的な代謝反応で生じるホルムアルデヒドによって引き起こされるDNA損傷の一種です。本研究では、DPCの修復メカニズムを解明するため、「DPC-seq」という新たな解析法を開発しました。DPC-seqの分析により、DPC修復が遺伝子の転写活性領域で優先的に行われていることが判明しました。
質量分析を用いた解析では、コケイン症候群の原因遺伝子であるCSBがDPC修復に関与することを見出しました。CSB機能欠損細胞では転写領域のDPC修復が遅延し、プロテアソームがこの修復過程に関わることも明らかになりました。
AMeD症候群モデルマウス(ALDH2・ADH5機能欠損)の血液細胞ではDPCが蓄積していました。さらに、ALDH2・ADH5・CSBの3重機能欠損マウスではより重篤な症状(短命、成長障害、造血不全)を示すことが確認されました。これらの結果から、AMeD症候群とコケイン症候群の症状は、転写領域でのアルデヒド由来DPC修復の過負荷または欠損が原因と考えられます。
今後は、アルデヒドを除去する化合物の探索がAMeD症候群やコケイン症候群の治療薬開発につながる可能性があります。また、本研究はアルデヒド由来DPCを老化関連DNA損傷の一種として提唱するものであり、個体の老化現象のさらなる理解につながることが期待されます。(Oka et al., Nat Cell Biol 26, 784-796, 2024)
■企業との連携
環境医学研究所は複数の製薬企業や医療機器メーカーとの共同研究、共同開発を推進し、私たちが保有する技術や知財の実用化を通して社会還元を図っています。その成果としてこれまでに複数の創薬ベンチャーや医療関連技術ベンチャー企業を送り出してきました。
■市民との対話
私たちは毎年市民公開講座や研究所公開を実施して研究所で行われている先端研究を市民の皆様にわかりやすく説明しております。また、大学が実施する各種公開セミナーにも積極的に協力し、いずれも好評をいただいております。
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