本研究所は、名古屋大学に所属していた3つの研究組織(太陽地球環境研究所、地球水循環研究センター、年代測定総合研究センター)を統合して、2015年10月に創設された附置研究所です。全国でただ一つ、宇宙科学と地球科学を結び付ける共同利用・共同研究拠点として活動しています。宇宙地球環境研究所では、地球・太陽・宇宙を一体としたシステムとしてとらえ、そこに生起する多様な現象のメカニズムや相互関係の解明を通して、地球環境問題の解決と宇宙に広がる人類社会の発展に貢献することをミッションに掲げ、室内実験や地上/海洋/人工衛星観測、さらに、これらのデータ解析と理論/モデリングを組み合わせた研究を多角的に展開しています。7つの研究部(総合解析、宇宙線、太陽圏、電磁気圏、気象大気、陸域海洋圏生態、年代測定)からなる基盤研究部門と、国際連携研究センター、統合データサイエンスセンター、飛翔体観測推進センターで構成される体制のもと、全国に附属観測所を配備し、世界の研究機関と学術協定を結んで、国際的な拠点活動を展開しています。
2022年1月15日に発生した南太平洋トンガ沖海底火山「フンガトンガ・フンガハアパイ海底火山」(以下、「トンガ火山」)の大噴火は、世界中に強烈な衝撃波や気圧波を放ち、その気圧波によって高速で伝わる津波を引き起こしました。この時も噴火による影響が電離圏に達していることが確認されていましたが、その発生メカニズムはわかっていませんでした。
宇宙地球環境研究所の新堀淳樹特任助教らの研究グループは、全地球測位システム(GPS)や気象衛星ひまわり、電離圏観測用レーダーなどのデータ解析を行い、噴火の約20分後には電離圏が波打つ現象(電離圏擾乱)が生じ、同心円状に地球全体へ広がっていく様子を捉えました。そして、トンガ火山に近いオーストラリア付近で観測された電離圏擾乱は、約6800km離れた日本へ、噴火で生じた気圧波よりも3時間早く到達していたことを発見しました。この結果は、南半球で発生した電離圏擾乱が音速で伝わる気圧波の速度よりも高速で磁力線に沿って伝わり、その足元である北半球側でもほぼ同時に発生したことを意味しています。この研究成果は、観測対象が数千kmの遠方の場合、気圧波の観測より数時間程度早く観測できる可能性があり、津波を引き起こした気圧波の情報を予め得られることを示唆しています。
論文情報:
Atsuki Shinbori, Yuichi Otsuka, Takuya Sori, Michi Nishioka, Septi Perwitasari, Takuo Tsuda, and Nozomu Nishitani, Electromagnetic conjugacy of ionospheric disturbances after the 2022 Hunga Tonga-Hunga Ha’apai volcanic eruption as seen in GNSS-TEC and SuperDARN Hokkaido pair of radars observations, Earth, Planets and Space, 74, 106, 2022.
https://doi.org/10.1186/s40623-022-01665-8
夏季南アジアの多雨地帯であるヒマラヤ山脈・メガラヤ高原周辺は、夜半から明け方にかけて雨が降る夜間降水が卓越します。この夜間降水はヒマラヤ山脈の氷河を涵養し、ガンジス川やブラマプトラ川などの大河の水源となるなど、流域に住む数億人の人々の貴重な水資源となります。また、メガラヤ高原は年間降水量の世界記録(26,461mm)を持っています。宇宙地球環境研究所の藤波初木講師らの研究グループは、最新の大気再解析データERA5を用いた解析から、夜間にベンガル湾西部の海岸域に沿って大規模に下層の南風が強化され、ガンジス平原に流入する大規模夜間湿潤気流を発見しました。この大規模夜間湿潤気流は、海上から陸上への水蒸気輸送を増加し、ヒマラヤ山脈とメガラヤ高原周辺の夜間降水を増加させます。ヒマラヤ山脈とメガラヤ高原の夜間降水は、ガンジス平原上の下層風の日変化で解釈されてきました。本研究は、この下層風の日変化がインド半島規模で発生する大規模な下層風の日変化の一部であることを示しました。この現象の発見は、南アジアの氷河域を含む山岳水文気候の形成・維持過程の理解向上に大きく貢献することが期待されます。
論文情報:
Fujinami, H., T. Sato, H. Kanamori and M. Kato, 2022: Nocturnal southerly moist surge parallel to the coastline over the western Bay of Bengal. Geophysical Research Letters, 49, e2022GL100174.
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