遺伝子病制御研究所は、免疫科学研究所と医学部附属癌研究施設が統合され、「遺伝子の異常が関わるヒト疾患の病因、病態解明及びその予防・治療法の開発」を目標として2000年に設置されました。病因、病態、疾患制御、フロンティア研究ユニットなどの5つの大研究部門に渡る13の研究分野、研究室と附属動物実験施設、感染癌研究センター等から構成されてスタッフ、学生を合わせて200名ほどのメンバーが活動しています。2008年には「細菌やウイルスの持続性感染により発生する感染癌の先端的研究拠点」(感染癌拠点)として文部科学省共同利用・共同研究拠点に認定されており、2022年度に更新されました。病原体の感染により生じる感染癌は我が国の癌死亡者の20%以上の原因とされ、本感染癌拠点では、新規の革新的な診断法、治療法の開発、より広い研究者のネットワークの形成、さらに新興感染症・新規感染癌へ備えを万全にするために感染、免疫、癌を含む周辺領域の研究を実施しています。また、概算要求事業となっている北海道大学部局横断シンポジウムを10年ほど主催し、国際的に活躍できる若手研究者の育成に取り組み、北海道大学独自のフロンティア精神をもって、独創的な切り口で、基礎医学、生命科学に新しいコンセプトを発表しています。
感染癌が発症するプロセスには、病原体が宿主の細胞に感染するプロセスから免疫反応をかいくぐって癌化し、感染癌を形成するまで多くのプロセスを経ます。そのプロセスの中で、感染癌になる細胞自体では、染色体構造と転写、細胞分裂、オートファジーなどの変容が、宿主反応では、免疫反応、炎症反応、細胞死など多くの現象が変化します。遺伝子病制御研究所では、これら個々のプロセスに対応する第一線の研究者が、基礎研究・応用研究分野で独自のコンセプトを発表し、感染癌の撲滅を目指して日夜研究を実施して多くの成果が上がっています。これらの研究成果から2021年度には、AMEDムーンショット研究の代表者、学術変革領域研究の代表者、JSTおよびAMEDクレストの代表者などを輩出し、さらに、大学の機能強化事業である「フォトエキサイトニクス研究拠点」、「若手研究支援事業」などを展開しています。
感染癌拠点事業として、国内外の研究者と感染癌と周辺領域の共同研究を実施し、感染癌関連の研究者が集まる共同利用・共同研究拠点シンポジウムを主催して感染癌関連研究者ネットワークの形成を推進しています。遺伝子病制御研究所では、感染癌解析データ、炎症の基盤であるIL-6アンプ関連遺伝子データ、siRNAなどの各種ライブラリー、さらに、国内に唯一を含む最先端機器を共同研究者に公開するとともに、新型コロナウイルス関連の研究も研究所プロジェクト研究として実施しています。最近、更なる感染癌研究力強化のためにピロリ菌、肝炎ウイルスを直接研究する3名の感染癌研究者を研究所に迎えました。
ピロリ菌感染は胃癌のリスク因子として知られています。私たちは、日本人の胃癌患者と非癌対照者を対象とした世界最大規模のDNA解析を行いました。その結果、相同組換え修復に関わる遺伝子群(ATM、BRCA1、BRCA2、PALB2)の病的バリアント保持者がピロリ菌感染者でもある場合、胃癌リスクが著しく増大することが明らかになりました(Usui et al. N. Engl. J. Med. 2023)。よって、相同組換え修復に関わる遺伝子群の病的バリアント保持者では、ピロリ菌除菌による胃癌予防効果がより顕著であることが示唆されます。
感染癌とその周辺領域である「感染、免疫、癌、炎症」に主眼を置いた基礎医学や生命科学研究の成果を通じて、感染癌や関連疾患の予防法や治療法を社会に還元することが大きな目標です。本研究拠点の研究活動を学生や市民の皆さんに知っていただくため、大学祭に併せて学内の他の研究所、センターと協働して所内一般公開を実施しています。生命科学の実験、観察体験やサイエンストークなどを行い、例年数百人の来場者があります。さらに、将来研究者を目指す高校生を対象とした所内見学会、職場体験、小学生を対象とした「北大こども研究所」の開催、幼稚園への寸劇を含む出張授業などを通じて、研究所で実施している研究を広く社会に対して発信しています。また、高大連携の新たな取り組みとして本研究所が主催する北海道大学部局横断シンポジウムのノーベル賞受賞者にて実施される特別講演を(2020年度:梶田隆章 東京大学教授、2021年度:本庶佑 京都大学教授、2023年度:ベンジャミン・リスト 本学特任教授、2024年度:天野浩 名古屋大学教授、10月6日金曜日予定)収録して、北海道内の高校の教材として提供しています。
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