北海道大学低温科学研究所は、1941年の創設以来、既存の学問分野を超えた新たな科学の創造を期して、雪氷学や低温生物学の黎明期を担ってきました。1995年には、大学附置としたままで寒冷圏および低温環境下における自然現象の応用と研究を目的とする全国共同利用型の研究所に生まれ変わり、さらに2010年からは低温科学における共同利用・共同研究拠点としてさらなる活動を展開しています。地球環境科学の一翼を担う研究機関として、寒冷圏の様々な自然現象の解明に取り組むとともに、物性物理学、地球化学、地球惑星科学、海洋科学、生物環境科学などに関する基礎的研究も推進しながら、様々な分野と複合的に結びつき新たな学術創成に努めています。
北海道が面する北太平洋は亜寒帯と呼ばれる気候帯にあり、そこには栄養豊富な親潮が流れている。この親潮域を含めた西部北太平洋亜寒帯域は、生物生産性が高く水産資源が豊富な海域として知られている。本研究所附属環オホーツク観測研究センターでは、北太平洋亜寒帯域の生物生産の基盤を支える植物プランクトンの増殖が、どのような仕組みによって制御されているのかを理解するための研究に取り組んでいる。この北太平洋亜寒帯域を理解するためには、この海域を取り巻くオホーツク海・ベーリング海との繋がりを含めた環オホーツク海域全体の栄養物質循環を理解していくことが必要となる。しかし、オホーツク海・ベーリング海の大部分は他国の排他的経済水域内であるため、これまで観測は著しく制限され、日本独自に研究を進めていくことが難しい状況にあった。低温科学研究所では、ロシア極東海洋気象学研究所との研究協力協定を基にした共同研究を実施し、これらの循環の鍵となるエリアの観測研究を進めてきた。
本研究では、親潮の源流域にあたるオホーツク海および東カムチャツカ海流とその上流に位置する西部ベーリング海の観測を実施し、これら未知の海域の海洋循環や栄養物質循環と、植物プランクトン増殖の空間パターンを支配する要因などを明らかにした。特にプランクトン生態系構造のデータを解析した結果、カムチャツカ半島沖から西部ベーリング海の植物プランクトンの増殖は、海洋循環で供給される窒素や河川などを通じて供給される鉄分などの栄養物質の利用可能性と、水温の影響を受ける微小動物プランクトンの捕食の大小によって決定されることを見出した。
現在、極域をはじめ北太平洋亜寒帯域やオホーツク海・ベーリング海では、海氷減少、水温上昇、水柱の成層化など温暖化の影響が現れている。本研究の結果から、温暖化の影響で鉄など栄養物質の供給が将来変化すると、植物プランンクトン量とそれに関わるプランクトン生態系構造も変化し、海洋の炭素固定量や水産資源量に影響を与えることが危惧される。
図A:本研究を実施した環オホーツク海域と主な海洋循環の概観図。
図B:東カムチャツカ海流から西部ベーリング海海盆域の観測における水温(a)、塩分(b)、硝酸塩濃度(c)、リン酸塩濃度(d)、ケイ酸塩濃度(e)、溶存鉄濃度(f)の表層の分布。東カムチャツカ海流上流域及び西部ベーリング海沿岸域では、海洋循環で供給される窒素と陸域から河川を通じて流入する鉄分が供給されるため、植物プランクトンの増殖は、鉄分や硝酸塩などの量によってボトムアップ的に制御される。
図C:東カムチャツカ海流から西部ベーリング海海盆域の植物プランクトンの増殖速度(上段(a)植物プランクトンサイズが20μm以上、(b)20μm以下、(c)全量)と微小動物プランクトンによる植物プランクトンの捕食圧(下段(d)20μm以上、(e)20μm以下、(f)全量)の空間分布。植物プランクトンの増殖は栄養分によるボトムアップ的な制御に加えて、微小動物プランクトンの捕食による強いトップダウン制御を受けている。
■共同研究・研究集会の開催
多くの所外研究者を招いて、共同研究の実施や研究集会の開催を推進しています。特に研究集会は、既存の学会や研究コミュニティを横断的に繋げる新たなコミュニティの創設を目指す企画を強化しています。
■国際連携の強化
現在までに32の国外研究機関、組織との連携研究協定を締結するなど、低温科学における世界的拠点としての機能を果たすために国際化を推進しています。
■雑誌「低温科学」
本研究所が毎年発行する「低温科学」は、毎年テーマを決めて、地球惑星科学、物性科学、地球化学、海洋学、生物分子科学、環境科学などを専門とする所内外の研究者により執筆し、専門家、初学者、さらには一般向けに研究所の研究をわかりやすく伝えていこうという趣旨の雑誌です。掲載記事は、「北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP)」において公開し、自由にダウンロードも可能です。
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