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北海道大学低温科学研究所

Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
  • 第1部会
  • 共同利用・共同研究拠点

研究所・センターの概要


所長
渡部 直樹
Watanabe, Naoki
キーワード
低温、寒冷圏、水・物質循環、雪氷、宇宙物質、生物環境、環オホーツク
住所
〒060-0819
北海道札幌市北区北19条西8丁目
低温科学研究の推進、共同利用・共同研究の実施、分野横断的に新たな学術研究の創出と展開

北海道大学低温科学研究所は、1941年の創設以来、既存の学問分野を超えた新たな科学の創造を期して、雪氷学や低温生物学の黎明期を担ってきました。1995年には、大学附置としたままで寒冷圏および低温環境下における自然現象の応用と研究を目的とする全国共同利用型の研究所に生まれ変わり、さらに2010年からは低温科学における共同利用・共同研究拠点としてさらなる活動を展開しています。地球環境科学の一翼を担う研究機関として、寒冷圏の様々な自然現象の解明に取り組むとともに、物性物理学、地球化学、地球惑星科学、海洋科学、生物環境科学などに関する基礎的研究も推進しながら、様々な分野と複合的に結びつき新たな学術創成に努めています。

令和3年度の研究活動内容及び成果


氷-水成長界面におけるステップバンチング不安定化現象の発現とそのメカニズムの解明

水が凍る,氷が溶ける,雪が降る-氷の成長と融解は私たちが日常でしばしば目にするありふれた現象である。また,氷や水,水蒸気は私たちの身近に存在すると同時に,地球上に豊富にあまねく存在し,とりわけ水から氷への成長は地球寒冷圏での生活や様々な自然現象と深く結びついている。では,水の中で氷はどのように秩序を作り出し,成長するのだろうか。意外なことに,その一分子レベルのミクロなプロセスとメカニズムについては今なお十分に理解されてはおらず,これまでヴェールに包まれていた。本研究所を中心とする研究チームは,独自に開発した最先端の光学顕微鏡を駆使し,水中で成長する氷界面の様子を直接観察した。一般に,結晶の成長はその表面・界面に分子・原子が層状に積み重なり,分子・原子スケールの段差が広がりながら進行する(図A)。それに対し,成長中の氷の界面では,一分子段差の前進運動と氷の成長によって生じる潜熱の拡散,界面の曲率に由来する融点降下(ギブス-トムソン効果)が動的に絡み合う結果,一つ一つの一分子段差が寄り集まって束になり,一定の間隔で並ぶより高い段差を作りながら成長することが明らかになった(図B,C)。このような段差(ステップ)の自己組織化現象は「ステップバンチング不安定化」として知られているが,融液成長と呼ばれる自身の融液から結晶が成長する典型的な結晶成長様式ではこれまで観測されていなかった。本研究は,水から氷へという最も身近な融液成長においてステップバンチング不安定化が存在することを実験的に明示した初めての研究である。本研究で得られた知見は,融液成長という最もシンプルな結晶成長様式の基礎的理解を深めると同時に,細胞・臓器等の冷凍保存で鍵を握る氷晶成長制御や,さらに広く半導体結晶を始めとする高品質・高機能の結晶性材料の開発・設計に向けた新たな指針となることが期待される。

図A:氷結晶の成長表面(ベーサル面)の模式図。段差(ステップ)に環境中(液体の水)の水分子が取り込まれることでステップの前進を伴いながら層状に結晶秩序を作る。このような層状成長の積み重ねで結晶が成長する。<br>図B:ステップバンチング不安定化とそのメカニズムの模式図。不安定化により一分子ステップ(図A)が寄り集まることで疎密ができ,密な部分はより高い段差として振る舞う。このような段差の形成は以下の三つのメカニズムの競合で説明される。①界面付近では潜熱による温度勾配(z方向)ができる。その中で,揺らぎにより右図のように単位ステップの疎密により山ができると,その先端はより温度の低い領域に接するので,山の成長は加速する。②一方,山は曲率を持つので,ギブス-トムソン効果により融点が下がり,山は平坦になろうとする。③密になった段差はより大きな潜熱を発生させるため,ステップの前進方向(x方向)にも温度勾配を作る。しかし,潜熱の拡散よりもステップの前進の方が速いため,密な領域は低温領域に進み,ステップの渋滞を解消する。この効果は山を平坦にする。以上三つのメカニズムの競合により,特定の間隔の疎密(山と谷)のみが生き残り,図Cのような一定間隔の段差のパターンを形成する。<br>図C:成長界面を上から見た高分解光学顕微鏡像(スケールバー:50μm)。

図A:氷結晶の成長表面(ベーサル面)の模式図。段差(ステップ)に環境中(液体の水)の水分子が取り込まれることでステップの前進を伴いながら層状に結晶秩序を作る。このような層状成長の積み重ねで結晶が成長する。
図B:ステップバンチング不安定化とそのメカニズムの模式図。不安定化により一分子ステップ(図A)が寄り集まることで疎密ができ,密な部分はより高い段差として振る舞う。このような段差の形成は以下の三つのメカニズムの競合で説明される。①界面付近では潜熱による温度勾配(z方向)ができる。その中で,揺らぎにより右図のように単位ステップの疎密により山ができると,その先端はより温度の低い領域に接するので,山の成長は加速する。②一方,山は曲率を持つので,ギブス-トムソン効果により融点が下がり,山は平坦になろうとする。③密になった段差はより大きな潜熱を発生させるため,ステップの前進方向(x方向)にも温度勾配を作る。しかし,潜熱の拡散よりもステップの前進の方が速いため,密な領域は低温領域に進み,ステップの渋滞を解消する。この効果は山を平坦にする。以上三つのメカニズムの競合により,特定の間隔の疎密(山と谷)のみが生き残り,図Cのような一定間隔の段差のパターンを形成する。
図C:成長界面を上から見た高分解光学顕微鏡像(スケールバー:50μm)。

 

社会との連携


低温科学研究の世界的発信の基盤確立を目指して

■共同研究・研究集会の開催

多くの所外研究者を招いて、共同研究の実施や研究集会の開催を推進しています。特に研究集会は、既存の学会や研究コミュニティを横断的に繋げる新たなコミュニティの創設を目指す企画を強化しています。

■国際連携の強化

現在までに31の国外研究機関、組織との連携研究協定を締結するなど、低温科学における世界的拠点としての機能を果たすために国際化を推進しています。

■雑誌「低温科学」

本研究所が毎年発行する「低温科学」は、毎年テーマを決めて、地球惑星科学、物性科学、地球化学、海洋学、生物分子科学、環境科学などを専門とする所内外の研究者により執筆し、専門家、初学者、さらには一般向けに研究所の研究をわかりやすく伝えていこうという趣旨の雑誌です。掲載記事は、「北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP)」において公開し、自由にダウンロードも可能です。

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