1926年設立の京都大学で最初の附置研究所である化学研究所は、30研究領域(専任教員約90名、留学生約70名を含む大学院生約230名、研究員等約60名、別に5客員研究領域)からなる5研究系・3附属センター体制をとっており、化学を中心に物理・生物・情報学に及ぶ先進・横断的研究を展開しています。各々の研究領域は、理、工、農、薬、医、情報学の本学大学院研究科の協力講座として次代を担う研究者の育成に努め、全学の教育にも積極的に貢献しています。最近では、「国際共同利用・共同研究拠点」(平成30年度文部科学省認定)、「上海オンサイトラボラトリー」(令和元年度京都大学認定)などの活動を通して国際的な学際分野の開拓も進めています。基礎から応用にいたる幅広い領域で、常に多様で新規な先駆的・先端的な研究を推進し、新たな知への挑戦を続けています。
1877年にシャルル・フリーデルとジェームス・クラフツにより発見された、フリーデル・クラフツ反応は、芳香族化合物のベンゼン環上にアルキル基やアシル基のような有機基を導入する手法であり、医農薬や化学材料を組み上げる強力な化学反応です。ベンゼン環上に電子供与性基が置換した電子豊富な芳香族化合物を原料に用いたフリーデル・クラフツ反応は、電子供与性基のオルト位とパラ位に、有機基が選択的に導入されます。一方で、電子供与性基のメタ位に有機基を導入することは不可能でした。
本研究所の大宮寛久教授らの研究グループは、青色LED照射下、環境負荷の少ない有機触媒を2つ組み合わせて用いることで、電子供与性基の置換した電子豊富な芳香族化合物のメタ位選択的アシル化反応の開発に成功しました(Nature Synthesis 2023, 2, 1037–1045)。これまで誰も到達できなかった、アンチ・フリーデル・クラフツ反応を開発したといえます。電子供与性基のメタ位に対して、完璧な選択性でアシル基の導入された芳香族化合物を各種つくりだすことが可能であり、医農薬や化学材料を迅速かつ効率的に組み上げる強力な有機合成技術につながります。また、光エネルギーと希少価値の高い金属元素を含まない有機触媒を利用しているため、環境に優しい有機合成技術として持続可能な社会の実現に貢献することも期待されます。
科学技術の高度化・専門分化が加速される中、産業界との研究連携は一層重要となってきています。本研究所では、多くの受託研究、共同研究などを通じて産官学連携研究の推進に注力しています。また、広く社会との連携も積極的に進めており、所外研究者や一般の人々に向けて、宇治キャンパス公開(2023.10.21-22第27回)、化学研究所研究発表会(2023.12.1第123回)、中・高校生向け出前授業などを行い、最新の研究成果を発信しています。広報誌「黄檗」やAnnual Reportなどの刊行物の発行、ウェブサイトやSNSによる情報発信も重要な広報活動です。
化学研究所では、部局間学術交流協定(令和6年4月時点で67件)などを基盤に、多くの海外研究機関と積極的な国際交流を実践してきました。これを一層推進すべく、平成23年度から、若手教員や大学院生などの短期の研究滞在を対象として、当研究所からの派遣と海外からの受入を支援する「化学研究所若手研究者国際短期派遣・受入事業」を実施しています。また本研究所には年間約300名の外国人研究者が訪れ、国際シンポジウムや研究所見学、共同研究などを行なっています。
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