異分野基礎科学研究所は、岡山大学においてこれまで活発に展開されてきた量子宇宙研究、天然光合成・人工光合成・構造生物学研究ならびに超伝導・機能材料研究を、統一的かつ組織的に遂行するために2016年(平成28年)に設置された新しい研究所です。上記の研究テーマは、素粒子物理学、生物科学、化学、固体物理学、材料科学の研究者によって、それぞれ独立に取り組まれてきましたが、本研究所では異なる分野の研究者の視点を融合して新たな学問体系を構築することを目指しています。2021年(令和3年)3月には異分野基礎科学研究所の研究棟新営工事が竣工し、これまで学内に点在していた研究室を棟内に集約したことで、それぞれの研究分野の深化発展だけでなく、さらなる異分野融合研究の発展・推進を図っていきます。また、2023年(令和5年)4月1日に、研究所附属の「国際構造生物学研究センター」が設置され、岡山大学独自に導入したクライオ電子顕微鏡を中心に、大学全体の構造生物学関連研究者を結集して、同分野の研究の展開・深化を図っています。
光化学系II複合体(PSII)は天然光合成において、光エネルギーを利用して水を水素イオンと電子に分解し、酸素を作り出すタンパク質複合体である。この水分解反応はS0→S1→S2→S3→(S4)→S0というS状態遷移を経て進行している。光未照射の時、触媒はS1状態にあるが、1または2閃光照射により、それぞれS2、 S3状態に遷移する。S1→S2、 S2→S3遷移に伴う構造変化を、X線自由電子レーザーを用いたポンプ-プローブ法により、20 nsec-5 msecの時間範囲でX線回折データを収集し、構造を解析した。その結果、様々な構造変化が確認され、特に2閃光照射後の早い時間で、O6*と呼ばれる酸素原子がCaの近傍に出現し、時間とともにO6の位置に移動したことが分かり(図1)、酸素分子形成の基質酸素の一つを提供していることが明らかになった(Nature、 626、 670-677、 2024)。
天然に豊富に存在する銅触媒を用いて、酸化的条件下で環状エーテルをアルキル化剤として活用し、基質としてスチレン誘導体や 1、1-ジアリールアルケンを用いることで、カルボアジド化生成物が得られた。さらに、5員環および6員環の環状エーテルを本反応に適用すると、アジド基と環状エーテル基を持つ標的有機分子が完全な位置選択性で得られた(図2)。ラジカル捕捉実験により、本反応がラジカル経路で進行していることを明らかにした(J. Org. Chem. 88、 4472-4480、 2023)。
2023年(令和5年)7月23日に高校生、大学生、一般の方等を対象にした公開講座「振り子の周期について」を実施し、紐の先にある質点が重力によって振動する円振り子において、振幅の大きさと周期の関係について解説を行った。ガリレオ・ガリレイによる円振り子の等時性は、「振幅が微小な場合の近似である」ということを説明し、微小とは限らない振幅を与えられた場合に周期がどうなるかを第一種完全楕円積分を用いて計算し、振幅が大きくなるほど周期が長くなることを数学的に厳密に証明した。聴講者からは、「経験と一致する」、「興味深かった」などのコメントがあり好評であった。
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