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名古屋大学環境医学研究所

Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University
  • 第2部会

研究所・センターの概要


所長
林 良敬
Hayashi, Yoshitaka
キーワード
ストレス受容・応答、生体適応・防御、脳神経系、内分泌、代謝、 ゲノム制御、新規治療・創薬
住所
〒464-8601
愛知県名古屋市千種区不老町

環境医学研究所は名古屋大学で最も長い歴史を持つ研究所(1946年創設)です。そのミッションは、「環境医学に関する学理及びその応用研究」にはじまり、時代の潮流や社会的要請に応じて「宇宙医学など特殊な環境下の健康科学」、「近未来環境がもたらす健康障害のメカニズム解明と予防法開発」と変遷してきました。現在は、神経系、内分泌・代謝、ゲノムを重点研究領域として、人体の恒常性維持機構やその破綻による疾患の発症メカニズムなどに関する基礎医学研究を展開しています。また、附属センターである「MIRAIC-未来の医学研究センター」と「産学協同研究センター」では、所外研究者との連携・次世代若手研究者の育成・先進製薬企業等との産学連携による実践的創薬研究を進めることにより、様々な健康障害に対して有効な予防法・治療法を確立することを目標に研究を行っています。

令和5年度の研究活動内容及び成果


内因性の主要なDNA損傷である脱塩基損傷の新規修復メカニズムの発見
(Sugimoto, Masuda et al., Nucleic Acids Res. 2023)

細胞内の代謝産物等に起因して生じる内因性のDNA損傷は、老化や発がん過程に関与すると考えられています。DNA脱塩基損傷は、最も頻繁に生じるDNA損傷の一つであり(図1A)、細胞死や突然変異誘発の原因となります。また、抗ウイルスタンパク質APOBECよる副反応、免疫細胞での体細胞超突然変異、受精卵の初期化の過程においても酵素反応的に生じ、その修復メカニズムの重要性は生命現象の多岐に及びます。細胞はDNA脱塩基損傷の修復メカニズムを備えており、二本鎖 DNA 上の脱塩基損傷は塩基除去修復という一連の酵素反応により修復されますが(図1A)、それでもヒトの組織では1細胞あたり50,000–200,000か所の脱塩基損傷が蓄積しています。DNA 複製の際には、鋳型となる DNAの一本鎖上に露出した脱塩基損傷は 遺伝情報の欠落によりDNAポリメラーゼの進行を妨げるだけではなく、DNA鎖の切断が伴うことで、より重篤なDNA二本鎖切断を引き起こし、細胞死を誘導します(図2)。近年、海外の研究グループは、DNA脱塩基損傷に特異的に共有結合し、化学的により安定であるチアゾリジン構造を伴ってDNA-タンパク質クロスリンクを形成する、HMCESタンパク質を発見しました(図1B、図2)。このDNA-HMCESクロスリンクがDNA複製に与える影響と、DNA-HMCESクロスリンク損傷が損傷のない元のDNAに修復されるメカニズムは不明でした。
私達は、DNA-HMCESクロスリンク損傷を含む一本鎖の人工合成DNA(一本鎖HMCESクロスリンクDNA)を作製する方法を開発し、DNA-HMCESクロスリンク損傷は脱塩基損傷よりも強くDNAポリメラーゼの進行を妨げることを見出しました。この結果から、DNA-HMCESクロスリンク損傷は、損傷部位を直接鋳型としてDNA複製されるのではなく、姉妹染色分体の相同性を利用した複製メカニズムによって複製される可能性を示唆しました。そこで、姉妹染色分体を利用した複製メカニズムによって生じる二本鎖DNA-HMCESクロスリンク損傷の安定性を検討し、一本鎖HMCESクロスリンクが非常に安定であることに対して、二本鎖DNA-HMCESクロスリンクはより速やかに半減期3.5時間でDNAから解離することを見出しました(図2)。この結果は、DNA-HMCESクロスリンク損傷が姉妹染色分体を利用した複製メカニズムによって二本鎖DNA-HMCESクロスリンクに変換されると、HMCESが逆反応により解離することで元のDNA脱塩基損傷に復帰し、このDNA脱塩基損傷が通常の塩基除去修復によって修復されるメカニズムの存在を示唆しています(図2)。
先行研究では、DNA-HMCESクロスリンクのHMCESタンパク質部分はプロテアソームによって消化され、第三のDNA損傷である、DNA-チアゾリジン損傷が生じる可能性が示唆されていましたが(図1B)、このDNA-チアゾリジン損傷がDNA複製に与える影響と、DNA-チアゾリジン損傷が損傷のない元のDNAに修復されるメカニズムは不明でした。私達は、DNA-チアゾリジン損傷がDNA脱塩基損傷と同程度にDNAポリメラーゼの進行を妨げること(図2)、一本鎖DNA-チアゾリジン損傷と二本鎖DNA-チアゾリジン損傷は比較的安定であること(図2)、さらに、複製後の二本鎖DNA-チアゾリジン損傷は、塩基除去修復で機能するAPE1というエンドヌクレアーゼが唯一、二本鎖DNA-チアゾリジン損傷の修復に関与することを明らかにしました。これらの結果から、DNA脱塩基損傷に起因したDNA-HMCESクロスリンク損傷の修復メカニズムの全体像に迫ることができたと考えています(図2)。
DNA脱塩基損傷を修復する塩基除去修復は細胞の生存に必要不可欠なメカニズムであり、その機能不全はさまざまな脳神経疾患をはじめとする、ゲノム不安定性疾患群の原因となることが知られています。本研究はDNA脱塩基損傷の修復メカニズムにおける基礎研究にとどまらず、未解明の難治性ゲノム不安定性疾患群の原因究明につながることが期待されます。

 

図1

図1

図2

図2

社会との連携


先端研究を社会へ

■企業との連携
環境医学研究所は複数の製薬企業や医療機器メーカーとの共同研究、共同開発を推進し、私たちが保有する技術や知財の実用化を通して社会還元を図っています。その成果としてこれまでに複数の創薬ベンチャーや医療関連技術ベンチャー企業を排出してきました。

■市民との対話
私たちは毎年市民公開講座や研究所公開を実施して研究所で行われている先端研究を市民の皆様にわかりやすく説明しております。また、大学が実施する各種公開セミナーにも積極的に協力し、いずれも好評をいただいております。

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