長崎大学熱帯医学研究所(熱研)は、昭和17年(1942)に長崎医科大学附属東亜風土病研究所として開設され、昭和42年(1967)に長崎大学附置熱帯医学研究所となりました。日本において熱帯医学研究を推進する唯一の公的機関として活動しています。本研究所は平成元年(1989)に全国共同利用研究所となり、平成5年(1993)には世界保健機関(WHO)からWHO協力センター(熱帯性ウイルス病に関する資料と研究)に、平成7年(1995)には文部省から熱帯医学に関する国際的に卓越した研究拠点の指定を受けています。さらに、平成21年(2009)に文部科学省より共同利用・共同研究拠点「熱帯医学研究拠点」の認定を受け、新たな運営制度のもと全国の研究者コミュニティーに開かれた研究所として活動しています。
リーシュマニア症は広く世界に蔓延する代表的な顧みられない熱帯病 Neglected Tropical Diseases(NTDs)です。リーシュマニア症制圧プログラムが進捗する中、同症の疫学調査やワクチンの臨床試験には、リーシュマニア原虫への曝露と防御免疫応答を検出する免疫検査が必須です。しかし、現在、免疫検査(LST)に必要な抗原は製造されておらず、問題となっています。寄生虫学分野は国際共同研究開発(G2019-213)にて、Leishmania donovani分離株 (Ld1S) の可溶性画分の検査用抗原としての有効性を確認した後、標準株としてクローンを選択・樹立し、そのマスターセルバンクとワーキングセルバンクを作製しました。次いで優良試験所基準(GLP)下で製造した可溶性抗原の有効性と大規模生産が可能であることを確認することで、検査キットの社会実装に向けて大きく前進することができました(Nat Commun. 2023)。
ベトナムでは2022年にデング熱の症例数が前年に比べて約5倍に急増しました。ラオス、マレーシア、タイ、ネパール、フィリピンなどの周辺国でも大規模なデング熱の流行を認めましたが、ベトナムを含むこれらの国々におけるウイルスの遺伝的特徴に関する情報は限定的でした。そこで本研究では、この大規模なデング熱流行時のデングウイルス(DENV)分子系統解析を行い、流行の背景を読み解くことを目指しました。共同研究先であるベトナム南部ブンタウ省の中核病院であるブンタウ総合病院において、デング熱が疑われた患者1889例の急性期血清サンプルを採取しました。PCR法による遺伝子検査を行ったところ、339例からDENV遺伝子を検出し、DENV-2が主流であることがわかりました。抗原タンパク質であるエンベロープ遺伝子配列に基づく系統解析を行ったところ、2022年のブンタウ省の流行では、新たなDENV-2系統が出現したことがわかりました。この系統が今後の流行や、周辺地域の流行にどのように関わっているのかを解明することで、アジア地域のデング熱流行におけるウイルス側因子を解明する基盤になることが期待されます。(J Med Virol. 2023)。
併設している熱帯医学ミュージアムでは、熱帯病の概説パネル、病原体顕微鏡映像、標本や模型などを展示・解説しています。毎年、多くの市民や修学旅行生の方々が見学に来られますが、国外からの来館者も多く、英語と中国語にも対応しています。国内外の貴重な標本や資料の収集保存と情報提供も行っています。人材育成としては、熱帯医学研修課程(3ヶ月)や国際研究倫理コース(3日間)などを社会人教育として毎年開催し、国内外から多くの参加があります。また、長崎大学医歯薬学総合研究科博士課程の熱帯病・新興感染症制御グローバルリーダー育成コースや熱帯医学・グローバルヘルス研究科、卓越大学院プログラムなどでの大学院教育を強力に支援し、高度人材育成にも貢献しています。さらに、令和元年(2019)にシオノギグローバル感染症連携部門を開設するなど、多くの産学連携研究も進めています。
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