京都大学複合原子力科学研究所は、昭和38年「原子炉による実験及びこれに関連する研究」を実施する目的で原子炉実験所として設置されて以降、全国大学共同利用研究所(平成22年度から共同利用・共同研究拠点)として研究用原子炉(KUR)や臨界実験装置(KUCA)、加速器などを用いて、理学、工学、医学、農学など多方面で研究を行っており、毎年、全国から多数の研究者や学生などが来所、大学が持つ原子力施設として国内最大規模のKURなどを利用した実験研究・教育に取り組んでいます。また、平成30年4月1日、新たに異分野融合・新分野創成を目指して「京都大学複合原子力科学研究所」へ改名すると共に改組を行い、国内外の多様な研究分野間の連携・融合活動を育成するためのユニット制を導入して研究・教育活動を推進しています。
研究用原子炉や加速器を用いる共同利用・共同研究を軸として、複合的な原子力科学の発展と有効利用に向けた先導的研究を推進しています。
原子炉を活用した研究は、中性子を中心とする粒子線や放射性同位元素の利用研究として大きく発展してきました。特に近年では原子炉だけでなく、加速器なども併用する研究が進展しており、従来の研究分野を超えた異なる分野の研究者が共同して行う複合的な原子力科学の研究を強力に推進しているところです。このため、多様化する新たな研究ニーズに対応し得る施設・設備の導入・整備に努めながら、原子力・放射線施設の特質に鑑み、複合原子力科学研究所の教員が全国の研究者と共同で行うプロジェクト研究を重視して、世界をリードする研究教育活動を発展的に展開する活動を進めています。
特徴的な活動としては、研究ユニット制を導入して異分野融合・新分野創生を進めてきましたが、特段の進展を見せ、日本医療研究開発機構(AMED)が進める生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)にも参加した中性子生体高分子研究を新たな段階に導くため、「量子ビーム生体高分子統合研究センター」を設置しました。
また、研究用原子炉 (KUR) が 2026 年を持って運転停止とすることが正式に決定しました。その役割を引き継ぐものとして、新たに福井県敦賀市で出力 10MWの中型研究用原子炉の建設が進められています。京都大学は、日本原子力研究開発機構 (JAEA) 及び福井大学と共に中核機関として当該研究炉の建設・利用計画に参画し、学術教育利用及び産業利用の検討における中心的役割を果たしています。研究所内では、推進組織として「新型研究炉開発・利用センター」が設置されており、2023年度よりは外部資金による「新試験研究炉産学共同研究部門」が追加設置され、さらなる活動強化が進められています。
本研究所では、従来とは全く異なる原理に基づくがん治療法である「ホウ素中性子補足療法 (BNCT) 」の研究を長年にわたって推進してきました。その結果、584件のBNCT事例を扱い(1974年~2019年)、世界最多の症例数及び対象疾患を扱ってきました。
治療研究は主に研究用原子炉(KUR)において実施されてきましたが、社会的に受容される治療として確立するためには、治療装置が病院に附設出来るものでなければならないとの考え方の下に、原子炉ではなく加速器による中性子発生に基づく新しい装置の開発を行い、2012年~2018年には、治験(患者治療)として、悪性神経膠腫(第1, 2相)及び頭頸部腫瘍(第1相)の患者さんを受け入れてきました。
その結果、大学における基礎研究であった BNCTの社会実装が現実のものとなり、現在では本研究所で開発した装置が国内2箇所の病院に設置され、保険治療が行われるとともに多くの良好な治療実績が積み重ねられています。現在も、本研究所では薬剤開発や適応症例拡大に関する基礎研究が熱心に進められており、実治療との協力の下に、さらに有効な治療として発展させるための努力が重ねられています。
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