本研究所は、原爆などによる放射線障害の解明とその治療法の開発を目的に1961年に設立されました。放射線は、細胞死による臓器の機能不全から急性障害を、ゲノム損傷による遺伝情報の改変からがんや白血病など晩発障害を誘導します。本研究所では、放射線によるゲノム損傷の修復メカニズムの解明、発がんにつながる分子機序の解明などの基礎研究から、白血病やがんの新しい治療法の開発と臨床展開、急性放射線障害に対する再生医学的治療法の開発などの臨床研究まで多角的な放射線医学・生物学研究を推進しています。さらに、原爆被爆者データベースを整備して、ゲノム障害情報の解析に基づく疫学的研究を進めるとともに、個々人の放射線影響を的確に把握できるリスク評価法の確立を目指すことで、包括的な放射線障害の研究を行っています。
一般集団には放射線感受性が高い人が含まれており、そのような人はCT検査などの医療放射線被ばくを繰り返すと、発がんリスクが増加することが懸念されます。放射線のリスクを抑えながらその有効性を高めるためには、放射線感受性個人差をより深く理解する必要があります。本研究所では、ヒト培養モデル細胞を作成して染色体の大量画像データを取得することで、遺伝的背景の影響を受けない高感度な定量的評価法を開発しました。この手法を用いて、DNA修復遺伝子の変異または多型が、放射線感受性個人差の遺伝素因であることを報告しました。
私たちは、放射線照射後のヒトiPS細胞を心筋細胞に分化させることで、実験倫理上の問題なく、培養皿上に晩発的に起こる心機能不全を再現する実験系を構築しました。あわせて、光計測技術を基盤に新技術を開発し、これら晩発的な心機能不全を定量できるようになりました。今後は、この技術を用いて、放射線被ばくの個人差に関する研究を行っていきます。
福島原発事故では、低線量放射線による一般住民の健康影響が懸念されており、福島県立医科大学(福島医大)を中心に、長期の県民健康調査や健康管理プログラムが実施されています。本研究所は、福島医大と連携して、福島県民に対する支援を行っています。
平成28年度から、長崎大学原爆後障害医療研究所及び福島医大ふくしま国際医療科学センターと共に大学の枠を越えた拠点ネットワーク「放射線災害・医科学研究拠点」を設置して、放射線災害・医科学研究の学術基盤の確立とその成果の国民への還元、国際社会への発信を目指しています。
さらに、原子爆弾や放射線の被災に関する情報を調査し、それに関する資料の収集、整理、保存と解析を行い、これらの情報や関連する医学研究を社会へ発信しています。
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