物性研究所は、日本の物性科学の研究推進のため1957 年に東京大学附置の全国共同利用研究所として設立されました。2010 年からは文部科学省認可の共同利用・共同研究拠点(物性科学研究拠点)として、物性科学や物質科学の中核を担っています。物性研は、全国の物性研究者に中・大型最先端研究設備を供与しつつ、設備の開発・整備、またそれらを用いた研究分野の開拓、および若手研究者の指導を中心に活動を続けています。物性科学とは、さまざまな物質が示す多彩な性質(物性)を、そのミクロな構成要素の原子や電子が従う物理法則によって解明する学問です。現在では、新しい化合物や人工物質に新たな性質や機能を見出す研究が進み、物理学、化学、材料工学の境界を超える総合的な学問として、現代社会を支えるエレクトロニクスや情報技術の基礎となっています。
物性研が擁するユニークな研究の一つが強磁場研究です。2018年9月には、これまでの世界最高磁場の記録を塗り替える1200テスラを実現しました。これは物性測定に実用可能な磁場として世界最高強度です。1970年代から連綿と行われてきた技術開発・研究によって達成され、600テスラに至る磁場中での物質科学研究が可能な世界唯一の拠点となっています。この成果は、1000テスラ以上の領域への可能性を拓き、半導体、ナノマテリアル、超伝導体、磁性体などの研究の新たな手段となるだけでなく、化学反応と分子、素粒子現象や宇宙プラズマの研究にも利用されようとしています。
近年トポロジカルな性質を利用した物質の研究が世界中で精力的に展開されています。物性研は、これらの根底となる理論への貢献と共に、トポロジカル物質の開発、性質の解明に挑んでいます。中でも最も関心の高い反強磁性体Mn3Snでは、結晶に歪みを与えることによって異常ホール効果の符号を制御可能にするなど、スピントロニクス技術への応用展開の幅を広げる成果を創出しています。また、トポロジカル物質における特有のスピンの流れを、10兆分の1秒間隔の超高速で観察可能な装置を開発しており、トポロジカル絶縁体において光で誘起されるスピン流の観測にも成功しています。
基礎研究の成果を社会に還元する産学連携としては、半導体製造に関わる法人が業種を横断して連携・開発するTACMIコンソーシアムを運営しています。次世代半導体製造に求められる回路基盤への加工を、実用レベルの技術で実現するなど、次世代半導体産業における日本の競争力強化に貢献しています。
HPやプレスリリースによる研究成果の情報発信のほか、直接的な交流の場として、一般公開や、講演会を毎年開催し、物性科学の知の普及に努めています。2023年度の一般公開では、4年ぶりの現地開催となり、サイエンス・カフェ、女子学生のためのプログラミング入門、スーパコンピュータ「オオタカ」の公開のほか、施設・センター・部門・研究室等の7つの企画などを実施して、2日間合わせて約3,500名の方々に来場いただきました。
将来の担い手である中高生や子どもたちに対しては、物性科学に親しんでいただくことを目的に、学校への出張/オンライン授業を行っています。また女子学生への理系進学支援として、女子中高生とその保護者を対象としたイベント、物理に進学した大学生・院生を対象にキャリアパスを示すイベントを東大カブリIPMU、東大宇宙線研と共に開催しています。
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