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未踏の領野に挑む、知の開拓者たち vol.09
人工衛星で、巨大地震の前兆をつかめ――
千葉大学 環境リモートセンシング研究センター
先端的リモートセンシングプログラム ヨサファット・テトォコ・スリ・スマンティヨ 教授

人類が、宇宙空間に初めて人工衛星を打ち上げたのは1957年のことだ。それから50年以上が経ち、打ち上げられた人工衛星の総数は7,000機を超え、そのうちおよそ1,000機が運用状態にあるとされる。
千葉大学環境リモートセンシング研究センターのヨサファット・テトォコ・スリ・スマンティヨ教授は、近い将来、2機の人工衛星の打ち上げを目指している。その目的は、宇宙から巨大地震の前兆をつかむことにあるという。

衛星に搭載される2つのセンサ

人工衛星で巨大地震の前兆をつかむ――。
その壮大な目的のため、ヨサファット教授らの研究グループは、「GAIA-Ⅰ」と「GAIA-Ⅱ」と名付けた2つの人工衛星の開発に取り組んでいる。「GAIA-Ⅰ」の目標重量は約50kg、「GAIA-Ⅱ」は約100kgと、人工衛星のなかでは「小型」の部類だ。
「いずれも、京都大学生存圏研究所やJAXA(宇宙開発事業団)、インドネシア宇宙航空局(LAPAN)などとの共同研究事業で、2010年代後半の打ち上げを目指しています。2機の人工衛星には、異なるセンサを搭載します」と、ヨサファット教授は語る。

人工衛星打ち上げに先駆けて、2014年12月に設置した「円偏波合成開口レーダ」(CP-SAR)の観測データ受信用アンテナ。場所は千葉大学キャンパス内の建物屋上。設置を記念して、研究室のメンバーとお揃いのポロシャツでパチリ。ヨサファット教授は満面の笑みを浮かべ、学生たちは思い思いのポーズをとる。研究室の和やかな雰囲気が伝わってくる(写真はヨサファット教授提供)。

人工衛星打ち上げに先駆けて、2014年12月に設置した「円偏波合成開口レーダ」(CP-SAR)の観測データ受信用アンテナ。場所は千葉大学キャンパス内の建物屋上。設置を記念して、研究室のメンバーとお揃いのポロシャツでパチリ。ヨサファット教授は満面の笑みを浮かべ、学生たちは思い思いのポーズをとる。研究室の和やかな雰囲気が伝わってくる(写真はヨサファット教授提供)。

「GAIA-Ⅰ」に搭載するのは、「GPS掩蔽(えんぺい)」(略称:GPS-ROあるいはGNSS-RO)と呼ばれるセンサだ。「掩蔽」とは耳慣れない言葉だが、「日食」や「月食」のように、対象物が天体に隠れる現象のことを指す。ここでは、ある人工衛星から見て、GPS(全地球測位システム)衛星が地球の影に隠れることを意味する。
「GPS衛星が地球の影に入ると、地球の大気の影響で、GPS衛星が発する信号がわずかに屈折することが知られています。GPS-ROセンサを使えば、掩蔽による信号の屈折を観測し、その屈折の仕方から、大気の構造を推定することができます」(ヨサファット教授)

「GAIA-Ⅰ」搭載予定のGPS-ROセンサは、大気の「電離層」の乱れの様子を観測対象とする。
「電離層」とは、太陽から放射される紫外線やX線の影響により、空気中の分子や原子が電子を放出している大気上層部の領域を指す。ここでは電波が反射する性質があり、遠距離の無線通信では、電離層の電波反射が活用されている。GPS-ROセンサは、その電離層の乱れを観測する。

対する「GAIA-Ⅱ」には、「円偏波合成開口レーダ」(略称:CP-SAR)と呼ばれるセンサを搭載する。このセンサは、地表の地殻変動の様子を精密に観測するのが目的で、ヨサファット教授の研究室が、2013年8月に開発に成功した。
「GAIA-ⅠとGAIA-Ⅱを組み合わせることで、電離層の乱れと地殻変動の関連性を調べることができます。電離層は、巨大地震が起こる1週間ほど前、“前兆”として乱れが発生することが指摘されています。電離層の乱れと地殻変動のデータを突き合わせれば、電離層の乱れは本当に巨大地震の“前兆”なのかを明らかにすることができます。それが確認できれば、電離層の変化を観測し、地震予知ができるようになる可能性があります」

雲を透過し、地球を見つめる。

「GAIA-Ⅰ」と「GAIA-Ⅱ」のように、人工衛星から遠方の対象を観測することを「リモートセンシング」という。文字どおり、「離れた(リモート)対象を観測する(センシング)」ことを意味する。
「リモートセンシング」の技術開発が進められたのは、宇宙開発が本格化した1960年代以降のことだ。そのころは、「リモートセンシング」と言えば人工衛星からの観測を意味していたが、昨今では、センサを飛行機や自動車、電車に搭載し、遠くの対象を観測することも含まれる。

「リモートセンシング」は、センサの種類によって大きく2つに分けられる。
ひとつは、可視光と赤外線を感知する「光学センサ」だ。
可視光センサとは、要するに「カメラ」のことだ。センサを使って遠方から画像を撮影し、その画像を解析する。対する赤外線センサは、物質から放射される熱を観測する。
もうひとつの「マイクロ波センサ」は、その名のとおり、「マイクロ波」と呼ばれる電波を感知する。ヨサファット教授が開発に成功した「円偏波合成開口レーダ」(CP-SAR)は、「マイクロ波センサ」のひとつだ。
さらに、「マイクロ波センサ」には、観測対象が自発的に放射するマイクロ波を感知する「受動型」と、センサからマイクロ波を発射し、その反射波を感知する「能動型」がある。レーダは後者の「能動型」の代表例だ。

「光学センサ」と比較したときの「マイクロ波センサ」の利点を、ヨサファット教授は次のように説明する。
「光学センサは要するに写真なので、見た目に分かりやすいのが利点ですが、雲があると可視光も赤外線も遮られてしまい、人工衛星から地表を観測することは不可能です。可視光センサは夜に使えないのも大きな弱点です。その点、マイクロ波は雲、霧、煙などを通り抜けることができますし、光で見るわけではないので、雲があっても夜になっても関係なく観測できるのが大きな利点です」
すなわち、「マイクロ波センサ」は24時間全天候型のセンサであるということだ。

合成開口レーダをはじめ、小型衛星に搭載するマイクロ波回路デバイスを開発するための高精度加工機。誤差±5μm(マイクロメートル)の精度を誇る。

合成開口レーダをはじめ、小型衛星に搭載するマイクロ波回路デバイスを開発するための高精度加工機。誤差±5μm(マイクロメートル)の精度を誇る。

なお、可視光や赤外線、マイクロ波をはじめとする電波は、いずれも「電磁波」の一種だ。「波」には同じ波形を繰り返す周期性があり、単位時間あたりの波の周期を「周波数」、ひとつの波の長さを「波長」という。「波長」と「周波数」には、次の関係が成り立つ。
波長が長いものは周波数が低く、波長が短いものは周波数が高くなる。ひとつの波の長さが長くなればなるほど、単位時間あたりの繰り返し回数は少なくなり、波の長さが短くなると、繰り返しの頻度が高くなる。そういう関係にあるわけだ。

「電磁波」は、「波長」あるいは「周波数」の違いによって、さまざまな性質の違いがある。
「光」と一般に呼ばれる可視光は、波長がおよそ400~700nm(ナノメートル:メートルの100万分の1)、波長の長い方から「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」の色が並ぶ。可視光より波長が短い電磁波には、波長がおよそ10~400nmの「紫外線」と、それより波長が短いものに、「X線」や「ガンマ線」の「放射線」がある。
反対に、可視光より波長が長い電磁波には、波長がおよそ700nm~1mmの「赤外線」と、それより波長の長い「電波」がある。「電波」は主に無線通信で利用され、そのなかでもっとも波長の短いものが、波長がおよそ1mm~1mの「マイクロ波」だ。そのうち「リモートセンシング」でよく使われるのは、波長がcm単位のものだ(周波数では、数GHz~数十GHzに相当する)。可視光が雲や霧に遮られ、マイクロ波がそれらを通り抜けるのは、可視光の波長は雲や霧の水滴よりも小さいのに対し、マイクロ波の波長はそれらより大きいからだ。

わずかな地殻変動を突き止めるために

「合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)」は、「能動型」の「マイクロ波センサ」の代表格だ。1990年代ごろから「合成開口レーダ」を実装した人工衛星や航空機が実用化され、わずかな地形の変化を測位できるため、主に資源探査や地形測量に使われている。日本でも、以下の衛星に「合成開口レーダ」が搭載された。
・地球資源衛星「ふよう1号(JERS-1)」(1992年2月打ち上げ、1998年10月運用終了)
・陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」(2006年1月打ち上げ、2011年5月運用終了)
・陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」(2014年5月打ち上げ)

「合成開口レーダ(SAR)」は、その名がセンサの性質をよく表していると、ヨサファット教授は言う。
「レーダは、アンテナから発射した電波が観測対象に当たって戻ってきた反射波を観測し、対象物との距離や大きさ、表面の性質を分析します。人工衛星のようなはるか上空から、地表の細かな状況を観測しようとしたら、利用するマイクロ波の波長によっては、アンテナの開口部を直径14km以上にもする必要があります。それだけ巨大な構造物を、人工衛星に搭載して打ち上げるのは現実的ではありません。その課題を解消するのが『合成開口レーダ(SAR)』です。小さなアンテナでも巨大なアンテナと同じような精度を出せるように、軌道を巡回する人工衛星が移動しながら集めたマイクロ波を後処理で“合成”し、あたかも開口部が大きなアンテナであるかのようなデータをつくります」

ヨサファット研究室が2013年8月に完成させた、波長約24cmの「円偏波合成開口レーダ」(CP-SAR)のシステム(上:写真はヨサファット教授提供)。センサを開発した実験室内のクリーンルームで(下)。

ヨサファット研究室が2013年8月に完成させた、波長約24cmの「円偏波合成開口レーダ」(CP-SAR)のシステム(左:写真はヨサファット教授提供)。センサを開発した実験室内のクリーンルームで(右)。

これまで人工衛星に搭載されてきた「合成開口レーダ(SAR)」は、「直線偏波」と呼ばれる電磁波の性質を利用してきたが、得られる散乱情報に限りがあるのが弱点だった。ヨサファット教授は、その偏波を回転させ、「円偏波(Circularly Polarized)」と呼ばれる形に改良した。その「円偏波合成開口レーダ(CP-SAR)」を、「GAIA-Ⅱ」に搭載する予定だ。
「円偏波合成開口レーダは、これまで得られなかったさまざまな散乱情報を得られるようになります。それにより、今までもよりも高い精度で、地表の状態を観測できるようになると期待しています」
わずかな地殻変動を逃さずキャッチし、地震発生のメカニズムを突き止める――。「円偏波合成開口レーダ」は、そのための重要な役割を担うことになる。

2012年6月、静岡県富士川滑空場で空を舞った無人航空機「JX-1」(写真はヨサファット教授提供)。

2012年6月、静岡県富士川滑空場で空を舞った無人航空機「JX-1」(写真はヨサファット教授提供)。

新たに開発中の「JX-2」の機体の前で。学生たちの表情も誇らしげだ。

新たに開発中の「JX-2」の機体の前で。学生たちの表情も誇らしげだ。

なお、高精度の「合成開口レーダ」は、土砂崩れや火山噴火、活断層などの観測にも応用できると期待される。その実証研究事業として、ヨサファット教授らの研究グループは、マレーシア山間部の高速道路周辺において、地殻変動と土砂崩れの予測に取り組んでいる。既に打ち上げ済みの人工衛星から「合成開口レーダ」のデータを集め、GPSデータと合わせて年にミリ単位の地殻変動を観測・解析する。マレーシア及び日本の研究機関との国際共同研究の成果だ。

開発したレーダを人工衛星に搭載して打ち上げるには、越えなければならないハードルがいくつもある。そのために、ヨサファット教授らはさまざまな実験に取り組んできた。
「まずは室内で性能実験を行い、続いて屋外で、センサを固定して観測性能を確かめました。合成開口レーダは、一点のデータを後処理で合成して面の情報を組み立てるものですから、ある一点の観測ができれば、センサの感度としては十分な性能があることを確認できます。その次に実施したのは車載実験です。クルマにセンサを乗せ、動いた状態で遠方の観測ができるかをテストしました。そこまで行くと、次は飛行機にセンサを乗せて上空から地表観測試験を行うのが通例ですが、私たちはその飛行機を、自分たちでつくってしまいました」

全長4.75m、主翼6mの大きさの大型無人飛行機の名は、「JX-1」という。機体には重さ25kgまでのセンサを搭載可能で、2012年6月には、静岡県の富士川滑空場で飛行試験に成功した。その後、円偏波合成開口レーダ(CP-SAR)を搭載して観測試験も行い、上空2kmから地上の様子を解析し、レーダの成功を確かめた。

今では、人工衛星打ち上げのためのさまざまな研究開発と並行して、機体をさらに大型化させ、より多くのセンサを搭載可能な無人飛行機「JX-2」の開発にも取り組んでいる。
さらに2016年3月には、実験は次の段階に進む予定だ。インドネシアの複数の研究機関と共同して、大型旅客機ボーイング737にCP-SARを搭載した実証飛行実験を行う。そのほかにも、オーストラリアや台湾、韓国などの関係機関と連携し、各国で災害監視用システムの技術開発とその実証実験に取り組む準備を進めている。

「パパとの約束」が育んだ夢

「レーダと飛行機をつくるのは子どものころからの夢でした」
ヨサファット教授は、昔を懐かしむような表情でそう語る。
父がインドネシア空軍の幕僚長を務め、空軍基地内で生まれ育ったヨサファット教授にとって、レーダも飛行機も、身近なものだった。
ある日、ヨサファット少年は何気ない質問を父に投げかける。
――お父さん、あのレーダは誰がつくっているの?
――あれはね、アメリカとかイギリスとかフランスとか・・・、外国でつくられたものを輸入しているんだよ
――えー、そうなの!? じゃあ飛行機は?
――飛行機も同じだな。レーダも飛行機も、インドネシアではつくっていないんだ
――軍隊は国を守るためのものでしょ? それなのに、自分たちを守るものを自分たちでつくらないのはどうしてなの?
――そうだな、お前の言うとおりだ。じゃあ、お前が大きくなったら、お前がレーダと飛行機をつくっておくれ
――うん、分かった。僕、パパを守るためにレーダと飛行機をつくるよ!

幼いころに父と交わした約束は、ヨサファット教授の胸に深く刻まれた。小学校・中学・高校と成績トップを守り続け、高校卒業後は、インドネシア政府の科学技術省の研究員として給費をもらいながら、日本に留学することになった。成績優秀者15,000人のうち、25人しか選ばれない狭き門だった。
1990年に来日し、一年間の日本語学校通いを経て、翌年、金沢大学工学部に進学した。4年生のとき、学内でレーダの開発に取り組む研究室を見つけ、そこで念願だったレーダの研究に取り組み始める。
1997年に修士課程を修了するとインドネシアに帰国、自国でのレーダ開発を目指すも、2年後の1999年にアジア通貨危機が起こり、インドネシア経済も混乱に陥った。国内で研究を続けることができなくなり、1999年に再び来日、千葉大学大学院に進み、合成開口レーダ(SAR)の研究を始めた。2002年3月に博士課程を修了すると、そのまま千葉大学で研究者としてのキャリアを再スタートさせた。

それからしばらく経った2004年12月26日、母国のインドネシアで大災害が発生する。スマトラ島沖での大地震による津波で、大勢の命が失われた。
「インドネシアも日本もともに島国で、どちらも地震や雨による災害が多い。災害を防ぐためにレーダを活用したいと心に誓いました。そうすれば、どちらの国でもレーダを役立てることができます。戦場に出るパパを守るためにレーダをつくりたいと思っていましたが、あのときの災害をきっかけに、今ではもっと多くの人の命を守るため、レーダ開発研究に取り組んでいます」
熱帯地域のインドネシアでは上空が雲に覆われていることが多い。日本にも梅雨があり、台風が多く接近する。雲の影響を受けることがない合成開口レーダ(SAR)は、災害監視に打ってつけだった。

数え切れないトゲトゲに囲まれた異空間は、「マイクロ波測定用電波無響設備」だ。ここで電波環境試験、電波散乱実験など、さまざまな試験を行う。ご自慢の設備の前で、ヨサファット教授もご満悦。

数え切れないトゲトゲに囲まれた異空間は、「マイクロ波測定用電波無響設備」だ。ここで電波環境試験、電波散乱実験など、さまざまな試験を行う。ご自慢の設備の前で、ヨサファット教授もご満悦。

スマイリング・プロフェッサーの眼差しの先

取材中、ヨサファット教授は常に笑顔を浮かべていた。
「実験がうまくいかないときも悲しいときも、いつもニコニコするようにしていたら、“スマイリング・プロフェッサー(笑う教授)”と呼ばれるようになりました。小さなころからの夢だったレーダや飛行機の開発に携わることができて、それだけでとてもありがたいことですから、自分が喜んでいる姿を、お世話になっている方に分かりやすく示す。すると、みなさんも喜んでくれて、それがまた嬉しくなります」

研究の話に力が入ると、自然と笑みが大きくなる。少年のころの夢を追い続けるヨサファット教授は、今も少年の心を持ったまま、壮大な研究に取り組んでいる。

研究の話に力が入ると、自然と笑みが大きくなる。少年のころの夢を追い続けるヨサファット教授は、今も少年の心を持ったまま、壮大な研究に取り組んでいる。

そんな“スマイリング・プロフェッサー”にとっても、無人飛行機が無事に空を舞ったときの喜びは、何にも代えがたい格別のものであった。
「レーダが思い通り動いたときももちろん嬉しいですが、飛行機の開発は、携わることができなかった時間が長い分だけ、喜びもひとしおでした。飛行試験が成功したとき、私は41歳になっていましたが、子どものころの父との約束以来の長年の夢を実現できた興奮で、3日間まともに寝られないほどでした」

若くして母国を離れたヨサファット教授は、今では各国を飛び回り、さまざまな大学や研究機関と共同研究を行い、国際機関や研究機関でさまざまな役職に就いている。
「GAIA-Ⅰ」と「GAIA-Ⅱ」は、京都大学やJAXA、インドネシア宇宙航空局(LAPAN)などとの共同研究で、NASA(アメリカ航空宇宙局)や韓国宇宙局(KARI)、ソウル大学とも火星探査や金星探査の共同研究を行っている。ほかにも、台湾国家宇宙センター(NSPO)やマレーシア政府などとも研究を進めている。
役職としては、ヨーロッパ宇宙局(ESA)やカナダ宇宙局(CSA)のアドバイザーのほか、米国の電気・電子工学技術学会であるIEEEのシニアメンバーを務め、かつてはJAXA宇宙科学研究所(ISAS)やインドネシア大学の客員教授などを務めていた。
「タコの脚のようにあちこちいろんなところに顔を出すから、イリノイ大学(米国)の親友の教授に、“アカデミック・オクトパス”なんて呼ばれたりもしています」と、ここでもまた満面の笑顔を見せる。

世界を舞台に研究に取り組むヨサファット教授は、後進の育成でも国の枠を安々と越える。
「国どうしが仲良くするのは、若い人たちが交流するのが一番」だと、留学プログラムの設立や留学費支援にも並々ならぬ力を入れる。自身がインドネシアで運営する財団に給与の2割を寄付し、奨学金の原資の一部に充てる。インドネシアの大学と協定を結び、昨年は日本の学生340人をインドネシアに派遣し、インドネシアから学生200人を日本に迎え入れた。
「相手の国のことを知る学生が増えれば、日本とインドネシアは、10年後、20年後、もっと仲良くなります」
スマイリング・プロフェッサーは微笑みの眼差しで、宇宙と地球の安全を、そして未来を見据えている。

 

飛行機は子どものころから大好きだったというヨサファット教授。多くの飛行機模型を前に、「Smiling Professor」の呼び名のとおり、満面の笑みを見せる。

 

ヨサファット・テトォコ・スリ・
スマンティヨ
千葉大学 環境リモートセンシング研究センター
先端的リモートセンシングプログラム 教授
1970年インドネシア・バンドン生まれ。1989年にインドネシアの高校を卒業後、インドネシア政府科学技術省技術応用評価庁の研究員として給費を受けながら(1990年~1997年まで)日本に留学。1995年金沢大学工学部電気・情報工学科卒業、1997年同大学大学院工学研究科電気・情報工学専攻修了。インドネシアに帰国後再び来日、2002年千葉大学大学院自然科学研究科人工システム科学専攻を修了して博士(工学)を取得。千葉大学電子光情報基盤技術研究センター講師(中核的研究機関研究員)、同大学環境リモートセンシング研究センター准教授を経て2013年より現職。

千葉大学環境リモートセンシング研究センター

http://www.cr.chiba-u.jp/japanese/

1995(平成7)年、リモートセンシング技術に関する研究を行う全国共同利用の研究センターとして本センターが発足。センサ開発、衛星データの補正や情報抽出、加工データの地球環境研究への利用など、一連のリモートセンシングに関する研究を行う。また、毎年40名前後の留学生を含む80~100名の学生を指導し、過去に卒業した留学生およそ100名は、母国でリモートセンシングの指導的立場を担う。
本センターのルーツは、1976(昭和51)年、千葉大学工学部内の研究施設に開かれたリモートセンシングに関する一つの講座にある。1986年には、その研究施設が学内共同研究施設「映像隔測研究センター」に発展し、それを受け継ぐ形で本センター誕生に至った。2010(平成22)年には、リモートセンシング分野の共同利用・共同研究拠点として文部科学大臣の認定を受けた。

【取材・文:萱原正嗣/撮影:カケマコト】

Links

文部科学省日本学術会議国立大学共同利用・共同研究拠点協議会